都市と廃棄物管理に関する調査研究報告


2.ごみの有料化と経済的手法の導入
 
(1)「ごみの有料化」のなお一層の推進
  厚生省が実施した一般廃棄物処理実態調査によれば、市町村及び一部事務組合が、一般廃棄物の処理(収集・運搬、処分等)に要した経費は、平成6年度で2兆1,665億円(国民1人当たり17,300円)に達している。
 もっともこの数字には、町村部が含まれており、都市自治体だけのデータはないものの、(財)東京市町村自治調査会の調査によれば、東京多摩地域での一般廃棄物処理経費は全国平均より1人当たり1,000円程度高く(平成3年度)、東京区部の場合は、全国平均の約2倍、1人当たり30,000円程度がかかっているとされる。このように、一般に都市化の進展に伴って、収集・運搬コストや中間処理施設・最終処分場用地等の確保費用が増加することから、都市自治体は、全国平均に比べるとかなり多額の一般廃棄物処理経費を投入しているものとみることができる。
 これまで、増加する一方のこうした高額なごみ処理経費は、自治体の一般会計から支出されることが通例であった。そのため、市民は、そもそも、高額の税負担を強いられていることすら知らず、また、市民が、ごみそのものを出さないようにしても、あるいは決められたように分別しても、その努力は評価されず、リサイクルを意に介さない市民と同様の税負担を求められるという不公平を生んできた。
 そこで、別名、『有料化提言』といわれた「廃棄物を中心とした都市の環境問題に関する提言」(全国市長会:平成5年6月)を切っ掛けとして、この4年間で、ごみの減量化と公平な負担を目的とし、ごみ排出量に応じてごみ処理費用の一部を市民に負担してもらう、いわゆるごみの有料化が着実に進んでいる。また、有料化導入に関し、市民と都市自治体が払った努力や負担とサービスの関係についての相互学習の効果には大きなものがあり、その点は積極的に評価すべきであろう。
 都市アンケート調査結果(設問30−3−(1)参照)にみられるように、事業系ごみの有料化については、464市、69.4%の都市自治体で実施されており、現在、従量制での有料化が潮流となっている。また、家庭系一般ごみの有料化についても、リサイクル活動や地域の環境問題に熱心な市民活動団体等からの支持もあって、169市、25.3%の都市自治体では、特定の袋を指定する等様々な形で有料化が導入されている。さらに、家庭系粗大ごみについても、従量制・定額制の違いはあるものの、183市が有料化するに至っている(設問30及び30−1−(1)参照)。
また、今後、家庭系ごみの有料化計画を持つ都市自治体も少なからずあり、ごみ処理経費の上昇に伴って、ごみ処理経費を、市民全体の財源たる税金の投入のみによって賄うのではなく、あえて、眼にみえる形で住民に負担を求めようとする動きは、大きな時代的潮流になってきているといえよう。
なお、現在実施されている有料化の料金は、一般的に、ごみ処理経費の5%から10%前後であると推定されている。また、家庭系ごみの有料化を実施した、先進事例たるA市の実績によれば、15〜20%程度になるとの調査結果もある。
 さらに、A市における有料化後のごみの排出量をみると、有料化を導入した翌年の可燃・不燃ごみの排出量は、導入前に比べて37%減っており、ごみの減量化の手法として有料化が大きな効果をもたらすことは確かである。
 先の厚生省の一般廃棄物処理実態調査によれば、自治体のごみ処理経費の平成6年度総額は、前年度に比べて、国民一人あたり約1,000円減少した。ここ5年間、ごみ排出量が横這いであったにもかかわらず、常に増加傾向にあったごみ処理経費がはじめて減少に転じた要因の一つとして、景気の低迷もさることながら、ごみの有料化によって一定度ごみの排出が抑制され、その結果として焼却炉や最終処分場の延命化が図られ、経費減少に繋がったとみることも可能である。
ただ、有料化を実施した場合、その直後に顕著な排出抑制傾向がみられるものの、しばらくすると、ごみ排出量が回帰する傾向にあるのも事実であるが、その増加はUターンではなくJターンであって、決して減量効果が打ち消されるということはない。たとえば、前述したA市の状況によると、導入直後の37%減から、平成8年度は、導入前比22%減にまでごみ排出量が増加している。これは、有料化導入当初は、資源にできるものが市民活動組織による回収に回されていたものの、市民が有料化に慣れるに従って、資源回収ではなく、可燃・不燃ごみとして排出することが多くなったためと分析されている。このことは、排出抑制を維持するためには、有料化の導入だけではなく、同時に、分別の徹底や資源回収ルートの整備・維持といった方策が求められていることを示している。
家庭系ごみの有料化は、合意形成の難しさや不法投棄の増加の恐れといった導入に際しての多くの課題(設問30−2(2)参照)があるにもかかわらず、「ごみの減量」と「住民のごみに対する関心を高めるため」には極めて有効な手段である(設問30−1(3)参照)。
そこで、有料化を推進する工夫として、有料化による収入の一部を地域の環境美化、リサイクル推進等のための基金として積み立てる条例を制定したB市の例のように、明確な方策により市民への還元の仕組みをつくることで、有料化に対する市民の意識を深め、理解を得ていくことも必要である
これらから、発生抑制・排出抑制を促し、ごみゼロ社会を構築していくためには、有料化の方向について、市民の支持と共感を得ながら、様々な工夫を検討する必要がある。この場合においては、市民自治の観点から、市民が積極的に議論に参加し、地域におけるごみゼロ社会の構築のためにどういう仕組みが有効なのかを自ら考え、決定に参画していくことが不可欠である。
 
(2)発生抑制を目指した「ごみの有料化」
  「ごみの有料化」は、消費者たる市民のごみに対する意識を変えることを通じて、事業者にインパクトとインセンティブを与え、リサイクル可能な製品が生み出されることを期待したものでもある。リサイクル意識の市民への浸透とともに、昨今、ブームともいえるISO14001の認証取得の動きにみられる事業者側の国際的な環境保全意識の高まりもあって、「ごみの有料化」は、ごみの排出抑制のみならず、着実に発生抑制にも寄与していると言えよう。
 しかしながら、ごみゼロ社会を目指し、発生抑制をより確実に進めるためには、都市自治体の進める「ごみの有料化」は、発生抑制を視野に入れた「廃棄物管理」のなかで、都市自治体の果たすべき役割とそれに付随する「廃棄物管理コスト」のどの程度を賄うべきなのかという観点から、改めて検討される必要があろう。
 この検討の前提となる、目指すべきごみゼロ社会とは、次のようなものであろう。
 すなわち、事業者は、汚染者・排出者負担の原則(PPP)に則って、環境負荷の大きさにより相応の負担をし、環境保全に要するコストを内部化している。また、事業者が共同出資してリサイクルをする仕組み(DSD方式:注)が確立されている。市民は、日常生活において分別と資源化、再生品の利用を徹底するとともに、どうしても処理しなければならないごみに関する処理費用の負担を厭うことはない。そして、都市自治体は、この最低限のごみ処理を「ごみの有料化」収入を基に実施する。また、都市自治体は、環境負荷の少ない資源循環型の都市環境を構築するために、税・課徴金制度を導入・整備し、それを原資として、事業者に対する指導、適正処理技術の開発支援、円滑なリサイクルのための「市場作用による価格や量の調整」に対する公共的な視点からの介入等を行う。このように、廃棄物管理の責任を基本的に行政が全て担うという従来の体制から、事業者・市民・行政の3者がそれぞれの役割と責任を果たして行く体制へ移行することが、目指すべきごみゼロ社会の基本に位置づけられるべきであろう。
 こうしたごみゼロ社会に近付くために、廃棄物管理の第一線に立つ都市自治体は次のことに着手しなければならない。廃棄物の適正な管理のために投じている、「廃棄物管理コスト」(例えば、家庭系一般ごみについては、収集・運搬コストから焼却・減容化コスト、ごみの一連の適正な処理の流れを管理するためのフローコントロール・コスト、最終処分場建設・維持管理コスト、リサイクルシステム維持コスト、環境に与える影響等)を的確に把握し、その情報を公開したうえで、市民に、「廃棄物管理」のためのサービスの選択と負担のあり方についての判断を求め、市民自らが、排出抑制に繋がる「ごみの有料化」のための具体的な「料金」を決定するという仕組みを創出していくことである。
 この過程では、廃棄物管理の各段階における市民・企業・行政のパートナーシップのあり方が、「廃棄物管理コスト」をどのように事業者、市民、都市自治体、都道府県、国が負担し合うかを通じて検討されなければならない。さらに、その際には、コストそれ自体の削減に向けて、たとえば、次のような具体的な項目が検討されることとなろう。
 @発生抑制に係わるコストの削減
   川上での発生抑制方策の検討として、製品の回収・リサイクルは原則的に事業者の責任でもあることを前提とした企業への働きかけのあり方、廃棄物処理コストの内部化方策等

Aリサイクル維持コストの削減
市民に対するインセンティブの与え方(リサイクルのしにくいものほど手数料を高くする差別料金制の導入や、有料化収入の緑化・福祉・奨学金等の特定財源あるいは基金等による還元手法の開発)、デポジット制度の導入方策、再生品消費拡大手法等

 B収集・運搬コストの削減
   分別コストの削減手法の検討及び運搬コストの削減手法の検討

C中間処分場、最終処分場の設置コストの削減手法の検討
計画段階からの住民参加のコストと立地をめぐる紛争処理に要するコストの比較分析(事例研究)、多様な処理方法を可能とする国庫補助制度のあり方、最終処分場の維持管理コスト、環境汚染防止経費のあり方
 
(注)DSD方式

ドイツにおいて、従来の自治体のごみ処理・リサイクルシステムに加えて、包装材だけを別に回収・リサイクルする組織(DSD社 = Duales System Deutschland GmbH)を作り、2重構造のシステムにしたもの。
 

(3)廃棄物管理コストの算出のためのごみ処理の原価計算手法の統一
  上述のような展望に立ちつつ、「廃棄物管理コスト」の算出に向けた第一歩として、都市自治体が当面取り組むべきことは、現在、各自治体で個別に検討されている、ごみ処理の原価計算手法をある程度統一して、マニュアル化していくことである。
 すなわち、一自治体内での「廃棄物管理コスト」を算出するために、各自治体間で必ずしも統一されていない、発生抑制とリサイクル関連経費の把握方法や原価計算への反映方法、建設費等の減価償却・起債利子や用地購入費・土地造成費の算入の仕方等のごみ処理経費の算出方法について、都市自治体が共同して手法を開発することが望まれる。将来的には、一般廃棄物・産業廃棄物の区別を無くし、一地域で排出される廃棄物全てに係わる管理コストの算出を図ることも、考慮しておく必要があろう。
 また、当面精緻に積み上げられていく廃棄物管理コストに「環境への負荷」を算入して、トータルコストあるいは「ごみの社会的費用」が算出され、ごみゼロ社会の実現に向けたより具体的な検討が必要とされる。その第一歩として、都市自治体は、「ごみの有料化」のあり方を検討するために、廃棄物管理コストの算出を目指した、ごみ処理の原価計算手法の統一に着手しなければならない。また、市民の廃棄物管理コストに対する意識の醸成や廃棄物管理の民主的なコントロールの観点から、これらの手法についての情報開示も併せて検討する必要があろう。
 

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