都市と廃棄物管理に関する調査研究報告


第2章 都市自治体の廃棄物管理をめぐる主要課題
 
1.「自区内処理」の原則と広域処理のあり方
 
(1)「自区内処理」原則の原意
  国の内外を問わず、廃棄物の処理はできうるかぎりその排出地域に近いところで行うという、「自区内処理」の原則は、社会的合意となっている。わが国では、一般廃棄物の処理が市町村の責務とされていることから、一般には、一般廃棄物の処理は市町村の行政区域内で完結させる、という意味で使用される。海外では、「NIMBY(Not In My Back Yard:第1章2−(6)参照」という言葉で表現されることが多い。
 しかし、NIMBYの対象は廃棄物処理施設に限らず、いわゆる迷惑施設全般におよび、また、「My Back Yard」(「自区内処理」の「区」に対応する)は、わが国でいう市町村の行政区域にかぎらず、市町村を構成する地域コミュニティの区域から、より広域の州や、さらには国家の領域の広がりにまであてはめられて使用されることもある。
 近年では、わが国でも「区」を様々な広がりに応用し、同じように、都道府県の行政区域や国の領域のなかで排出した廃棄物はそれぞれの区域・領域で処理する、という考え方にまで拡大して使われるようになってきた。都道府県の場合、他都道府県の産業廃棄物の搬入について事前協議制度を設置する等の対応がとられているのは、この原則を応用したものといえる。
 「自区内処理原則」という言葉は、もともと、昭和40年代後半に、東京都の、いわゆるゴミ戦争を収拾する方策を検討するなかで編み出された造語であり、中間処理(焼却処分)およびその施設の建設に伴う負担を文字どおり、23「区」の間で公平に分担し、そのために、各区が相応に焼却施設などの建設を受け入れていくべきである、という方針を意味するものであった。
 たしかに、この原則は、一般廃棄物の処理が排出地域の自治体の責任であることを改めて明確にし、同時に、住民の廃棄物問題に対する関心を喚起した点で、極めて意義のあるものであり、また、この原則に基づいた実際の施策によって、廃棄物をめぐる地域間の紛争を一応解決することができた。しかし、23区の場合の「自区内処理原則」は、廃棄物の中間・最終処理を自区内で完結させることを必ずしも意味するものではない。当時も各区に焼却施設が設置されていたわけではなく、また、最終処理についても、23区から排出する廃棄物は、東京湾に設置された、ただひとつの処分場に埋め立てられている。
 23区の場合、「自区内処理原則」は、あくまで負担の公平化という形で確保されたものであった。たしかに、ゴミ戦争を契機に、それまで焼却施設が設置されていなかった区で施設建設を促進する運動が展開され、実際に焼却施設が建設された事例はある。しかし、そうでない区では、その代わりに、廃棄物搬送のための中継基地の建設を受け入れる等の方法で、この原則の確保が図られたのである。
 
(2)「自区内処理」の状況と広域処理
  一般廃棄物の排出量の増大、土地利用の高度化等から、最終処分場の確保が困難になっている近年において、廃棄物行政における「自区内処理原則」の意義は決して減じることはない。むしろ、これまで以上に強調されてよいといえる。一方で、この原則を堅持することが必ずしも容易ではなくなってきている状況が窺える。
 厚生省のまとめでは、平成6年度の全国の一般廃棄物の最終処分場の残余年数は、8.7年と推測されている。また、同年度に、全国の市町村が都道府県外の民間業者に最終処分を委託した量は約35万トンであり、そのうち首都圏(茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県)の市町村が委託した量は約29万トンで、全体の約8割を占めていた(厚生省「首都圏の廃棄物の広域移動の状況について」平成9年9月)。
 市町村の行政区域外での最終処分量は、これを大きく上回ると予測され、特に大都市地域における都市自治体に自区外処理の事例が多くなっていることが推測できる。
 都市アンケート調査結果からは、「焼却」で5割、「最終処分」で4割の都市自治体が、広域処理方式を採用していることがわかる(設問13参照)。また、単独で、「選別・資源化」や「最終処分」を行っている都市自治体のなかには、それらを市域外=自区外の施設で行っているところがあることも明らかになった(「選別・資源化」16%、「最終処分」16%)。特に「最終処分」については、規模の大きい都市自治体ほど、自区外の施設に依存する傾向がみられる(設問13−1参照)。
 なお、単独で「焼却」を行っている自治体のほとんどは、自区内施設で処理しているが、調査結果は、今後、都市自治体が、この段階の処理業務も広域で対応しなければならなくなることも示唆している。
 ダイオキシン対策として、焼却施設の大規模化・広域化を図ることを自治体に要請する厚生省の通知(「ゴミ処理の広域化計画について」平成9年5月)に対して、大規模化・広域化が「必要である」と考えている都市自治体は、全体の6割に及ぶ(設問14参照)。また、それへの対応について、「推進する」および「問題はあるが推進せざるを得ない」と考えている都市自治体も、同じく6割に及ぶ。なお、「問題が多く推進することは困難」「推進しない」との考えの都市自治体も3割に達している状況にある(設問15参照)。
 もちろん、これらは、現在の中間処理の技術水準を前提にした回答の結果である。だが、今後、一般廃棄物の中間処理の段階で、「自区内処理」の原則を堅持することが困難になり、中間処理の広域化を検討せざるを得ないと考えている都市自治体は、決して少なくないであろう。
 
(3)広域処理のあり方
  「自区内処理」の原則は、自治体による廃棄物の減量化やリサイクルなどの施策を促進させるなど、わが国の廃棄物行政に大きな影響を及ぼしてきた。しかしながら、一方で、この原則には、廃棄物行政の効率性を阻害している側面がみられる。また、様々な歪みもみられるようになってきている。例えば、焼却施設や最終処分場は市街地や住宅地を避け、市町村の郊外に設置される傾向にあるため、市町村の境界付近に、同じような施設が隣接する事例がみられる。また、やむをえない事情等で自治体が廃棄物処理業者に処理を委託し、その業者が遠隔地で埋立等をした際にトラブルが発生したような場合に、委託した自治体が、自区外処理の事情を外部に明らかにしたがらない傾向もみられる。この原則がかえって、廃棄物処理の責任の所在を曖昧にする事例もみられるのである。
 今後の都市自治体における廃棄物管理を考えるうえでは、広域処理のあり方についても真剣に検討されなければならない。
 前述したように、ダイオキシン対策としての焼却施設の広域化の必要性は、都市アンケート調査結果において既に明らかにされている。広域処理として考えられるものとしては、焼却残渣を処理する灰溶融施設を共同で設置、あるいは、ごみの持つエネルギーの効果的な利用方法のひとつとして注目されているRDF(注)による発電施設を広域で整備する、などが検討される必要がある。このほか、容器包装リサイクル法の施行等にともなって、プラスチックの油化などのためのストックヤードの整備が必要となるが、これは、複数の自治体で回収された資源としての廃棄物を受け入れることが前提とされている。
 都市アンケート調査結果によると、焼却施設の民営化(企業等による施設の設置、運営)の是非に関する都市自治体の考え方はほぼ二分され、その民営化の実現性には懐疑的な立場をとるところが多いが(設問19参照)、民間企業が灰溶融施設を整備し、複数の自治体が焼却残渣の処理を共同で委託することや、民間企業が発電施設を整備し、複数の自治体からRDFを受け入れる方式も検討されてよいであろう。
 
(注)RDF(Refuse?Derived?Fuel)
 生ごみ、紙等の可燃ごみを粉砕・乾燥・成型処理し、固形燃料化させたもの。石炭と同程度の発熱量を持ち、ごみ発電所で完全燃焼し、ダイオキシンなどの有害物質の発生割合が低く抑えられる等、自治体においてのごみ処理技術として注目されている。
 
(4)自区内処理原則を踏まえた広域処理
  前記1−(3)で提示したような、広域処理のあり方を検討することは、「自区内処理」の原則を破棄することを意味するものではない。むしろ、前記1−(1)で説明した「自区内処理」の原則の原意を確認し、この原則を広域処理の前提条件に据えることが必要である。
例えば、ある自治体が他の自治体の行政区域内に廃棄物を搬入し、そこで焼却したり、埋め立てるような場合、少なくとも搬入する側の自治体が自区内で処理しようとする真摯な努力を怠っていれば、搬入される側の自治体や住民の理解と協力は決して得られない。自区内処理を貫徹しようとする姿勢と行動とを搬入される側に明示することによって、はじめて、広域処理のあり方を検討する前提にたどり着くことができる。
都市アンケート調査結果(設問35参照)をみると、都市自治体の処理圏域に対する考えは、「効率的で経済性の高い方法を選択」が36.2%であるのに対し、「自区内処理原則を堅持」は8.7%、残る51.8%も何らかの条件を付けての区域内処理を選択しており、自区内処理を意識した結果となっている。なお、これらの結果の地域差はほとんど見られない。したがって、広域処理を導入する場合、物理的に自区内に焼却工場や最終処分場を全く確保できない等により「自区内処理」が困難な場合が優先され、効率性だけの追及や住民の協力を得られないという理由では理解を得ることは難しくなろう。
 さらに、広域処理の際には、搬入される側の自治体と協議の上、合意に基づいて、分別する廃棄物の種類・品目をどの程度まで区分するか、また中間処理が必要な場合、どのような状態にまで処理するのか等の基準を設定し、分別と中間処理を自区内において徹底する必要がある。また、将来において処理の圏域を構成する自治体が増える場合などは、一部事務組合を設置して廃棄物を処理している圏域の市町村でみられるように、例えば、分別する廃棄物の種類・品目等を統一する等、広域処理の圏域を構成する自治体は全て、そうした基準を採用するよう検討し、採用した場合には、自区内において処理するのと同様に真摯に取り組まなければならない。
 また、遠隔地の自治体に所在する施設を利用する自治体の場合、その自治体とこれらの基準について協定等を締結することが考えられる。
 これらのこととともに、自区内で発生する一般廃棄物を管理するシステムの構築を検討することが必要となる。一般に、民間委託によって、どのように自区外(遠隔地)で処理されているか、その実態を委託した自治体が正確に把握しているとはいえない場合が少なくない。こうした状況を改めることも、広域処理のあり方を考える際に、これらを検討の対象とすることが必要である。
 そこで、自治体においては、自区内にどのような廃棄物がどのくらい排出されているかを把握したうえで、自区外で処理するものについては、それがどこをどのように移動しているかを監視できる体制を整備する必要がある。この段階における廃棄物管理では、さらに、これらの情報を都道府県、国とも共有できるシステムを構築し、全国規模の管理体制を整備することが必要である。
 なお、広域処理の行政体制として、従来、都市自治体では、一部事務組合、施設の区域外設置等の方式を採用してきた。今後は、これらに加えて、国等の権限も委譲されうる広域連合制度を積極的に活用することが考えられる。
すでに、町村で構成する広域連合が、ごみ・し尿処理施設の設置・管理・運営、一般廃棄物収集運搬業等の許可を行っている事例(大分県の東国東広域連合:平成9年9月1日設立)はある。また、平成10年4月より発足するものであるが、市町村で構成する広域連合として、ごみ・し尿処理施設の設置管理を行う事例(鳥取県の鳥取中部ふるさと広域連合)やごみ処理の広域化計画の策定及びごみ焼却施設の管理運営を行う事例(長野県の上田地域広域連合)がある。広域連合制度では、住民による議会の議員や長の直接選挙が制度化されており、また、直接請求制度も認められている。この仕組みが、十分に活用されることが望まれる。
 また、現行の制度では、一般廃棄物の処理は市町村の責務とされているが、実際には都道府県が、何らかの形で関与せざるをえない事例も少なくない。そうした現実を考慮すると、広域処理の行政体制を構想する際に、都道府県の役割を再検討することも必要である。例えば、特に規模の小さな市町村では、RDFによる発電施設等の大規模施設の建設等、特定の事務を都道府県に委託する方式を設けることが考えられる。
 さらに、府県(滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県)と市町村(大津市、京都市、大阪市、神戸市、奈良市、和歌山市その他)が共同で最終処分場を設置し、広域の廃棄物を処理している事例(いわゆる、大阪湾フェニックス計画)は既にあるが、今後は、こうした広域処理体制への民間企業の参入のあり方を検討することも必要である。先に触れたように、デンマークでは、既にこうした官民による広域の協力体制が整備されており、廃棄物問題への対応に一定の成果をあげている。


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