都市と廃棄物管理に関する調査研究報告


3.廃棄物関連の技術開発の方向
 
(1)技術開発に関する基本認識
 @廃棄物管理の技術開発の基本的方向
 今日、廃棄物問題が都市自治体の政策課題のトップの1つに位置づけられる状況下にあって、廃棄物関連の技術開発への期待が、特に自治体関係者の間において大きくなっている。
 これまでの廃棄物管理に関する技術開発は、もの(物質やエネルギー)の廃棄段階、つまり、ごみの処理段階における処理の効率化と安全の確保を志向して進められてきたが、これからはその一層の充実とともに、ものの消費段階(ごみの排出段階)、生産・流通段階(ごみの潜在的発生段階)における対応も急がれている。
 とりわけ最近では、生産段階における製品等の設計において、消費者が使った後にも、一定の再利用、再資源化、循環が行われることを想定した技術開発の重要性が認識されつつある。今後は、廃棄物処理技術の高度化を含めて、生産・流通・消費の3段階をつないでいくことで、ごみを出さない(ゼロ・エミッション)社会実現のための「逆工学」(注1)等を含む総合的な研究開発体制づくりが求められよう。
これに加えて、製品やサービス等に対する資源・環境面の評価が、ライフサイクル・アセスメント(製品の製造・流通・使用・廃棄・リサイクルの全過程を通しての環境負荷評価)等を通じて実施されていくことで、資源循環型社会の形成が促進されていくものと考えられる。
 
(注1)逆工学
新製品を生み出す従来の工学に対し、環境保全の経済社会を求める工学。廃棄物を有効資源として再利用したり、無害化する方法を探り、環境配慮型商品を開発することなどを目的とする。国連大学のゼロ・エミッション計画や国際標準化機構のISO14000シリーズの導入などから注目され出した。
 
A技術開発の方向
 これからの廃棄物管理に関する技術開発の重点は、前述の(3)−1−@のように、ごみを発生させない抑制基調のものとすべきであるが、今日の地球環境問題の深刻化を踏まえると、廃棄物処理の技術開発も重要である。
 これからの廃棄物処理に関する技術開発の重点は、排出されたごみを小さくするための焼却技術だけでなく、エネルギー回収等廃棄物の持つ資源的価値を最大限に有効利用するためのリサイクル技術に置くべきである。
 焼却技術については、ダイオキシンの発生抑制が当面の最重要課題となるが、既設炉や特に小規模炉のダイオキシン発生抑制技術の開発を早急に進める必要がある。
ところで、廃棄物処理の技術開発においては、これまで技術開発の可能性を重視するあまり、そのための推進費用等を度外視した試みが多く、せっかく開発された技術が社会的に定着しにくかったと指摘する声もある。現状において適正な処理水準とコストの関係が明確に示せないため一概には言えないが、今後は開発の効果とコストとの関係に配慮することも重要であり、また、新しい技術の導入は、自治体財政に多大な影響を与えるため、コスト面を考慮した技術開発が望まれる。
 
B中小規模技術の可能性
 資源循環型社会においては、地域の市民生活と一体となって形成されつつある技術にも注目すべきであろう。これまで各地で行われてきた生ごみの堆肥化や資源ごみ等からリサイクル製品をつくる技術等は、今後とも積極的に促進されるべきである。
 都市におけるリサイクル技術は、地域のリサイクル文化の形成に貢献するものであって、地域的特性に対応した、いわゆる地域技術としての中小規模技術が基本となろう。このような地域技術は、たとえばコンポストを通じた都市と農業の関係、ごみ発電等を通じた地域社会における生活とエネルギーの関係等の再生・再構築に、大きく寄与するものと考えられる。
 
(2)技術開発の現状と課題
 @技術開発の現段階
 今日では、廃棄物処理等に係る個々の装置(工作物等)や設備に関する技術(要素技術)の開発は終了しているか、あるいは既に開発のメドがついているといわれている。したがって、今後の課題は、新たに個々の要素技術を開発することよりも、既存の要素技術を組み合わせた、廃棄物処理のシステム技術をいかにして開発していくかにあるといわれている。
 ところで、廃棄物施設の設備等の技術開発に関して、都市自治体はプラント・メーカーに強く依存しているというのが一般的な実態である。大手数社のプラント・メーカーと都市自治体における技術力、技術情報等の量的差異は大きく、導入する設備等に関する技術評価等すら自治体サイドでは十分にできない状況にあるといわれている。
 今回の都市アンケート調査の結果は、そのことを裏付けている。「新たな処理施設の建設や新しい処理技術の検討を行うに当たり、特にどのようなことが問題だと考えますか」(3つ以内のマルチ・アンサー)に対しては、技術情報の収集における「メーカー依存」が最も多く、364市、54.4%となっており、それに「自治体に専門家がいない」が350市、52.3%で続いている(設問25参照)。
 加えて、もとより技術開発の基本は専ら国の役割として位置づけられるものとはいえ、自治体における廃棄物処理に関する研究及び技術開発への熱意と投資が小さすぎるのではないかという専門家の見解もある。たしかに、都市アンケート調査でも、「新しい技術開発」への対応に関しては、「技術開発・調査研究に取り組んでいる」という都市自治体は全体の8.5%の57市にすぎない(設問24参照)。都市自治体の3分の2は「情報の収集程度」にとどまっているし、「特に対応していない」という都市自治体も158市(全体の23.6%)もあった。このように自治体において、廃棄物処理のシステム等に関する研究調査や技術開発が不十分なために、施設等のハード面への過大な投資をもたらし、自治体の廃棄物管理全体のコスト・アップを招いているという見解もある。
 その一方で、企業サイドでは、ごみ処理等の環境ビジネスへの期待が大きく、有望市場とみなされている。プラント・メーカー等により、熱分解溶融炉、スーパーごみ発電、固形燃料化(RDF)技術の開発等が進められている。また、都市アンケート調査においても「ごみの処理技術等の導入や検討」について尋ねているが、「灰溶融」を導入ないし導入を検討している都市自治体は、全体の54.6%の365市にのぼり、「固形燃料化(RDF)」を導入ないし導入を検討しているものは、45.2%の302市となっている(設問23参照)。
 
A焼却施設等に関する技術開発の動向
 さて、現在の都市自治体における焼却施設の技術面等の改良・改善意向をみると、都市アンケート調査結果によれば、「焼却施設に関して今後、設備面、技術面で改良・改善が求められる」テーマとしては、「ダイオキシン類等有害物質・公害の発生抑制」が圧倒的であって、532市(79.5%)の都市自治体がそのように答えている。それに「残渣の減容化」(188市、28.1%)、「設備の耐久性」(157市、23.5%)が続いている(設問22参照)。
 次世代の廃棄物処理技術として最も注目を集めているのが、熱分解ガス化溶融技術(注2)である。ダイオキシンの発生抑制、エネルギー回収、残渣の減容及び無害化、再利用の可能性等から、焼却技術に代替する技術として注目されている。また、前述の3−(2)−@に示したように、都市アンケート調査結果においては、これからの都市自治体において積極的に導入する意向の強い処理技術として、残渣減容のための灰溶融、ダイオキシン対策とエネルギー利用を目的としたRDF(固形燃料化)が上位に挙げられており、注目を集めているのである。
 
(注2)熱分解ガス化溶融技術
 廃棄物を蒸し焼き状態で熱分解し、回収したガスを利用して熱分解後の廃棄物を高温で溶融する技術。通常の焼却処理が850℃前後で焼却するのに対して、熱分解溶融炉では1300℃から1800℃という高温で溶融するため、ダイオキシンの発生が抑制される。また、残渣はスラグ状になり、有害物質も溶出しないため、土木資材として再利用できる。技術的にはほぼ実用の域にあるが、大型炉での実績はこれからである。
 
B課題としての市民合意
 新しい技術の開発・導入は、自治体にとって大きな負担となる。他方で、廃棄物処理施設に対する市民のニーズは益々高くなり、新技術に対する期待は大きいものがある。
 地域性や都市の規模などによる適正な技術の選択が今後の課題となるが、新技術の導入に対して市民の合意を形成するためには、『こういう技術がある』『最新技術を使うとコストはどうなる、リスクはどれだけ減る』といった技術情報等を市民に積極的に提供しながら、市民と自治体間で合意形成を深めることが必要である。
 
(3)都市自治体における技術開発の方向
 @技術開発の役割と方向
 技術開発を推進するに当たっては、まず国・自治体・企業等の基本的役割分担を明確にすることが必要である。たとえば、基礎的な技術の開発は国立研究所等の国の役割と責務であり、消費・リサイクルの段階においてダイオキシン等の公害等因子を発生させない製品開発等は企業の責任である。そして、都市自治体は、地域で応用していくための技術や地域技術の開発などがその役割といえる。国・企業等、そして自治体が連携協働してこそ、市民生活に受け入れられる廃棄物管理技術は形成されるのである。
 都市アンケート調査結果でも、「国の機関に行ってもらいたい技術開発・研究のテーマ」(フリーアンサー)としては、ハード面ではダイオキシン類の発生メカニズムの解明が群を抜いており、次いで発生源物質の根絶、リサイクル技術の開発・研究の要請が挙げられ、ソフト面では適正処理困難物等の事業者回収システム、課徴金・デポジット制、フロン回収等の方法等、廃棄物管理の基礎になるような事項の提起が行われている(設問26参照)。これらは、国の研究機関等が中心になって、強力に進められることが期待される。
 技術開発に関する企業の役割については、最近注目を集めているものとして処理施設の設置および運営に関してのPFI(Private Finance Initiative:注3) による企業協同組合等が設立される等、これまでの民間委託を超えた民営化の動きがみられることもあって、その可能性の検討は今後とも必要である。
 ところで、都市自治体における現在の廃棄物処理事業は、ごみの収集・処理・処分が中心である。今後は、独自の戦略をもった技術開発や調査研究が一層望まれるとともに、ソフト面等への投資や自治体相互間、自治体と企業間等の共同研究・技術開発が求められる。ちなみに、都市アンケート調査結果では、前述の設問24の技術開発への取り組み状況で触れたように、技術開発に自ら取り組んでいるのは、669都市の中で57都市となっている。さらに、開発の手法を尋ねると、57都市のうち、22都市(38.6%)が「企業、民間研究機関、市民団体等民間との共同開発・研究」を、15都市(26.3%)が「公的機関等と民間を合わせた共同開発・研究」を行っている(設問24−1参照)。
 なお、都市アンケート調査において「自治体間で連携・共同して行う必要があると考える技術開発・研究のテーマ」(フリー・アンサー)としては、各種処理施設の整備、広域処理処分の推進方法、分別基準・処理方法の共通化、研修・研究機関等の設置等が提起されている(設問26参照)。
これからの都市自治体における技術開発は、廃棄物処理施設そのものの開発改良を進めていくことはもとより、今後、ますます重要になるリサイクル等の技術を市民とともに地域技術(小規模廃棄物管理システム)として確立させていくことも重要な課題であろう。
(注3)PFI(Private Finance Initiative)
公共部門が実施していた社会資本整備を、民間事業者主導で実施しようとする手法。イギリスにおいては、近年、公共事業の効率化を目指し、道路、病院、ごみ処理施設等広範囲なインフラ整備に導入されている。日本でも、現在、各界で検討が進められている。
 
A都市自治体における技術スタッフの充実
 このような中で、中長期的には、都市自治体においても廃棄物に通じた技術スタッフの養成、充実が必要となろう。都市アンケート調査でも、技術開発に関する自治体の専門家不足が訴えられているし、研究開発に専念できる組織がないことを、226市(33.8%)が挙げている(設問25参照)。
今後は、廃棄物関連の技術者のための研究プログラムの開発、自治体間の技術者の人事交流等の推進が期待される。
 また、都市自治体が廃棄物に関する諸課題に対処していくためには、これら技術スタッフの育成に加え、リサイクルをはじめとする廃棄物政策をまちづくりの一環として位置づけて、市民と共に企画し、行動するプロフェッショナルな職員を養成していくことも求められよう。
 
Bごみの定義や設備規格等の標準化の推進
 都市によって、施設の整備状況や地域特性には差異があり、粗大ごみ、可燃ごみ、不燃ごみ等のごみの定義が都市によって、バラバラで一致していない状況がみられる。このため、資源リサイクル等の広域的連携を推進する観点からは、共通課題を共同研究するためにも、まずは関係自治体間のごみ等に関する定義の統一化が必要であろう。
 また、前述したように、自治体の廃棄物処理に関する技術は、一般的には個々の都市において、プラントメーカー等との共同によって開発整備されているのが現状である。そのこともあって、収集車から焼却施設、リサイクル施設等まで、性能発注方式によるオーダーメイドのものとなり、その費用も高額なものとなっているといわれる。これからは、自治体サイドのイニシアチブを発揮するため、自治体間の共同開発体制等を整備し、客観的、標準的データの作成や設計仕様等を自治体間で持ち寄り、標準化を目指すことが、整備能力の向上とともに、費用の低減を図るためにも必要であろう。
 
C廃棄物管理技術に係わる全国的ネットワーク機能の整備
以上のような技術開発を進め、定着させていくにあたっては、市民及び都市自治体が連携して、技術やシステムに関する研究開発、さらには政策提言等を主体的に行える場を確保することが要請される。
そのためには、廃棄物管理技術の全国的ネットワーク機能の整備が必要ではないかと思われる。そこでは、たとえば、市民や都市自治体にとっての廃棄物管理の理念やあり方に関する研究、技術に関するマクロデータの整備と公開、地域技術や有害物質の除去技術等の開発と提供等々、市民生活や都市地域の実情やニーズに即した種々の企画や事業が実施、展開される。
すでに、廃棄物研究財団(平成元年設立)や全国都市清掃会議(昭和22年発足、昭和51年社団法人化)等の技術開発に関する全国組織が設置されているが、これらの組織等との協力・連携も図りながら、国の研究機関等と並行する形で、都市自治体がリーダーシップをとって、これからの廃棄物管理に必要な技術を研究・開発・応用していく体制を整備することが求められている。


目次