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サマリー

サマリー

 本報告は、全国市長会の委託を受けて、中長期的な視点から、今後の都市自治体における廃棄物政策の推進と確立に資する提言を行うため、(財)日本都市センターに設置した「廃棄物に関する都市政策研究会」(座長:寄本勝美 早稲田大学政治経済学部教授)における、平成9・10年度の2ヵ年にわたる調査研究の成果を取りまとめたものである。

◇廃棄物政策の基本課題
 資源循環型社会の構築を円滑に達成するためには、「川下」の廃棄物処理段階を担う都市自治体の努力に専ら依存するという、現在の構造から脱却することが必要である。そのため、次の点を廃棄物政策における基本的課題と認識した上で、それに必要な対策を講じることが不可欠である。
・市民、事業者、行政の責任や役割の明確化、連携・協力関係の強化の方策を探ること。
・「川上」にあたる廃棄物の発生段階からアプローチし、リサイクルと廃棄物処理の体系を統合する、「廃棄物管理」という概念を確立すること(7ページ、図1参照)。
・諸課題の根本的な解決のため、現在の法体系の見直しを含めた廃棄物政策の新しいスキームを構築すること。

◇本提言の基本的スタンス
 本提言では、まず、廃棄物政策における枠組みや制度体系の改革、特に新しい総合的・包括的な法律の制定を求めており、次いで、都市自治体にとって当面力を入れるべき重点課題について、その解決のための「物差し」ともなり得る政策提言を行っている。取りまとめにあたっては、次の3点に特に留意することとした。
・都市自治を尊重し、地方分権の潮流を踏まえること。
・市民、事業者、自治体及び国それぞれの役割と責任分担の再構築を行うこと。
・廃棄物政策の推進を総合的なまちづくりの重要な柱として位置づけること。

第1章 資源循環・廃棄物法(仮称)の制定に向けて
 本章では、資源循環型社会の構築のため、資源循環と廃棄物を総合的に「管理」するという視点に立脚した新たな法律の制定が必要であるとの認識のもと、その新法に盛り込むべき理念・考え方、都市自治体の視点から新法が備えるべき事項・条件を明らかにした。

◇新しい法律の目的
 新法は、物質循環や製品のライフサイクルをトータルにとらえ、経済的手法等の政策手段の導入を図り、モノの流れに沿って資源循環と廃棄物を総合的に管理する体系を構築することを目的とする。これは、現行の廃棄物処理とリサイクルが2本立ての法律体系となっていることにより生ずる諸問題を解決するためでもあり、本提言ではこの新法の名称を「資源循環・廃棄物法」(仮称)とした。

◇廃棄物の定義と区分の見直し
 新法においては、廃棄物管理のために、現行の廃棄物の定義や区分を抜本的に見直し、経済活動から発生する不要物をトータルに捕捉するような定義と区分にする必要がある。すなわち、次のように、廃棄物の定義と区分の見直しを図る必要がある。
・不要物を包括的にとらえ、リサイクルの可能性に基づいて、「リサイクルすべきもの(再生利用物)」と「リサイクルの不可能な廃棄物」とに区分すること(13ページ、図2参照)。
・上記の廃棄物を、有害性などの性状に応じて、客観的な要件によってさらに区分すること。
・各区分の管理あるいは処理責任について、第一義的には、発生抑制、排出抑制のために、事業者の回収・再生利用や廃棄物処理に係る責任が確立されること、併せて、都市自治体の責任と権限を、再生利用物及び廃棄物の総合的な管理が可能となるように改めて位置づけるなど、公共関与のあり方の見直しを図ること(14ページ、図3参照)。
・具体的には、次のような区分が考えられる(詳細の例示は17ページ、表1参照)。
【再生利用物】………再生利用を優先させるべきと考えられるもの等で、事業者が回収・再生利用のルートを構築する。都市自治体は、民間リサイクル事業の育成等の基盤整備や地域の再生利用ルートの監視、市民・事業者の指導を行う。
【第一種廃棄物】……処理施設で安全に処理処分できるもの(有機物、リサイクルできない紙くず等)で、一般家庭から排出されるものは都市自治体が処理処分する。事業活動から排出されるものは、原則として事業者自らが処理し(適正なコストで都市自治体が受託可)、都市自治体はその監視等を行う。
【第二種廃棄物】……有害物質生成の可能性等のため、高度な公害防止装置を備えた処理施設等で処理処分する必要があるもの。従来の産廃に加えて、プラスチック等家庭系の有害物質を含む製品をも包含する概念。原則として事業者自らが処理処分する(家庭系については、適正なコストで都市自治体が受託可)。都市自治体は、都道府県とともに事業者が行う回収・処理の流れを監視する。
【特別管理廃棄物】…有害性や危険性、例えば感染症の危険等から、特別な管理を要するもので、事業者の処理処分が基本であり、家庭から発生するものについても事業者が適正な回収・処理システムを構築する責任を負う。都市自治体は、都道府県とともに事業者が行う回収・処理の流れを監視する。
なお、いずれについても、国は事業者の監督・指導を行う。

◇役割分担の考え方 ―責任主体と事業主体の区分―
 新法における廃棄物管理に係る役割と責任の見直しにおいては、「責任主体」と「事業主体」を分けて考えることが必要である。すなわち、適正に廃棄物を処理する責任主体は第一義的には発生者・排出者、すなわち事業者(企業)、市民(消費者)であり、この責任主体からの付託によって、事業主体たる都市自治体が処理を行うという考え方を明確にし(18ページ、図4参照)、次のような役割の再構築を図るべきである。
・リサイクルや適正処理を行う責任主体は、発生者・排出者であることの明確化。
・拡大生産者責任に基づき、製造販売事業者も責任主体の役割を担うこと。
・責任主体である市民や事業者の費用負担原則の明確化。
・都市自治体による廃棄物処理の内容は、前記の廃棄物区分の見直しを基本としつつ、都市自治体の策定する計画において、市民等の意見・ニーズや地域の実情を踏まえ、決めていくべきものであること。
・市町村が事業主体として処理できないものについては、都道府県が事業主体となる可能性も検討すべきであること。
・国は、廃棄物管理についてのグランドデザインの提示、新法制定や政策の総合化に向けての各機関の協力・連携、各主体がそれぞれ責任や役割を果たせるような支援、事業者に対する適切な規制や監督を行い、また、技術開発、再生資源市場の拡大等を図っていくこと。
・自治体の主導による、まちづくりとリサイクルや廃棄物関連の施設整備が総合的かつ計画的に連携して実施され得るよう、国土利用計画や都市計画等の制度整備と併せて、総合的な財政措置を国において講じること。

◇都市自治体の役割の明確化
 分権型社会に向け、地域におけるガバナンスの確立が廃棄物政策の分野でも必要とされている。併せて、都市自治体には、一方では廃棄物処理の事業主体としての役割を重点化し、他方では総合的な再生利用物・廃棄物の管理という観点からの役割を拡大していくことが強く求められる。新たな法体系のもとでの都市自治体の役割は、次のように考えられる。
・処理が容易で有害でない第一種廃棄物についての廃棄物処理事業の運営。
・自己責任、拡大生産者責任等の廃棄物管理の原則に基づき、市民や事業者がその責任・役割を果たせるような調整、都市全体の廃棄物のフローの管理・監督。
・自ら事業主体として処理できない廃棄物について、周辺市町村や都道府県と連携しての広域的な処理体制の整備・推進。
 そして、廃棄物管理のための広範な役割を果たせるよう、次のような権限等が新法で確認され、また、明確に規定されることが求められる。
・都市内の各主体相互による協働の仕組みを作りあげるコーディネーターとしての都市自治体の役割・能力の強化、発生・排出に対する監視機能・権限の強化、再生利用物のリサイクルの仕組みを構築する能力・権限の強化。
・特に、有害性のある廃棄物や特別な管理を要する廃棄物について、都市自治体がその流れを把握し、不適切な処理を監視する権限。
・まちづくりとの連動による地域独自の廃棄物政策を企画・実施する体制のさらなる強化。
 これらに加えて、新法の立法過程及び執行過程において、自治体の意見が十分かつ的確に反映される仕組みが必要である。

第2章 リサイクルの一層の促進
 本章では、都市において有効なリサイクルシステムの構築に活用できるよう、事例とともにその手法を示した。

◇リサイクルの一層の促進に向けた必要条件等
 リサイクルの一層の促進のためには、資源循環を基調としたリサイクルシステムの構築と、社会的合意に基づく事業者・市民・行政の各主体の役割分担が基本的に必要である。
 また、資源循環型社会構築の前提条件としては、ごみの減量化を社会に定着させるとともに、資源・エネルギー収支やコストダウンに配慮した、リサイクルの容易な製品の開発とその選択・購入が求められる。さらには、環境にやさしいライフスタイルへの転換を図るため、各主体が積極的に環境学習に努めることと、その学習に必要な環境情報の提供が十分になされるべきである。

◇多様な回収ルートの整備、マテリアルリサイクル、サーマルリサイクル等
 効率的にリサイクルを行うためには、資源物の分別排出の徹底、既存の回収ルートの拡充に加えて、多様な回収・再生利用ルートとシステムの整備が必要である。また、リサイクルの優先順位としては、まず、資源・エネルギー収支等に配慮しつつ、極力「マテリアルリサイクル」を進める必要がある。そして、技術的・経済的理由や環境負荷の程度等からその実施が困難な場合には、焼却に伴う環境対策に万全を期しながら、「サーマルリサイクル」を行い、熱エネルギーを有効利用すべきである。

◇再生品の使用促進
 リサイクルシステムが円滑に機能するよう、各主体は再生品の積極的な選択・購入に努めるべきである。また、再生品の市場競争力を高めるため、需要の拡大などによる安定的な再生品市場の確保に努めるべきである。

第3章 ごみの有料化の導入・促進
 本章では、ごみの有料化についてその積極的意味を改めて確認するとともに、ごみ有料化の導入・促進のための政策展開の際に都市自治体が留意すべき視点を示した。

◇有料化の必要性
 資源循環型社会に必要な環境負荷を抑制する仕組みとして、経済的手法は有効であり、その一つであるごみの有料化についても導入・促進が求められる。その導入に際しては、市民・事業者を廃棄物管理における責任主体と位置づけ、都市自治体はその付託を受けて適正にごみ処理を行う事業主体であるという基本原則を保持するべきである。

◇有料化の導入・促進のために
 ごみの有料化は、ごみ処理経費の負担の一部を市民に求めることによって、市民の生活習慣に変化をもたらし、ごみの減量化・資源化を促進させるものである。ごみの有料化の導入・促進にあたっては、市民に情報を積極的に提供し、ごみ処理費用の負担のあり方を議論する環境づくりが不可欠であり、有料化導入の諸目的を効率的かつ効果的に達成する独自の政策展開も必要である。都市自治体は、市民等の理解と合意形成、有料化を効果的に行う仕組みの構築、有料化における価格設定根拠の明確化等を進めなければならない。