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序 本提言のねらい

序 本提言の意義とねらい

1.廃棄物政策の基本的課題

 今日の大量生産・大量消費・大量廃棄の社会経済構造により、地球規模での環境問題が顕在化している。その一方で、全国の各地域では、都市型生活への移行もあいまって廃棄物の排出量が増加し、その処理・処分による環境負荷の増大から様々な地域環境問題が生じている。しかしながら、このような状況を転換させ、次世代のための持続的発展が可能な社会づくりをめざすことが、今の日本社会に求められている。
 これまでの我が国の廃棄物政策においては、大量の廃棄物を効率良く、かつ安全に処理・処分することが中心に置かれてきた。しかし、このような処理システムにおいては、廃棄物の量的増加に後追いで対応せざるを得ず、新たな処理施設の整備や最終処分場の確保がたえず要請されることになる。しかも、それらの課題に対処することは、地域環境への影響の懸念などから、ますます困難な状況に追い込まれている。
 また、1990年代に入り、国際的に、国内的にも、廃棄物に関する考え方が根本的に変わってきている。その考えとは、生産・流通・消費の各段階から廃棄物の発生・排出を抑制すべきだというものである。そのために規制や経済的手段を資源循環のメカニズムとして積極的に取り入れていこうという動きは、今や世界的な潮流となっている。
 これらを踏まえて、都市自治体では、大量の廃棄物を専ら焼却や埋め立てによって処理していたこれまでのシステムの中に、資源の有効利用・環境への負荷の低減という観点から、リサイクルの仕組みを取り入れ、地域ごとの取り組みを積極的に進めてきたところである。一方、国においては、平成3年にリサイクル法(再生資源の利用の促進に関する法律)の制定と廃掃法(廃棄物の処理及び清掃に関する法律)の改正を行い、平成5年の環境基本法の制定及び平成6年の環境基本計画の策定において、「循環を基調とする経済社会システムの実現」を目標に据えた。さらに、平成7年の容器包装リサイクル法(容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律)や平成10年の家電リサイクル法(特定家庭用機器再商品化法)の制定などを行い、リサイクル重視の廃棄物政策を展開してきた。このように、物質循環のサイクルを強化し、資源循環型システムを社会経済構造の中に根付かせる取り組みが続けられてきたといえよう。
 しかしながら、これらの取り組みにもかかわらず、自治体の処理・処分の現場においては、未だ大量の廃棄物が流れ込んでくる状況にあり、また、有害な物質の混入等もあって、都市自治体における行政対応は困難をきわめている。これは、都市自治体が、地域住民の生活環境の保全に責任を持つ観点から、廃棄物の減量・リサイクルの推進に懸命な努力を払うことにより、これに伴う人的・財政的コストが上昇していることに加えて、廃掃法を基礎とする、資源循環型社会をめざしての現在の諸施策では、以前にもまして都市自治体に求められる負担や役割が大きくならざるを得ない状況にあるためである。これまでのような資源循環型システムといわれるものは、専ら川下の処理段階を担う都市自治体の努力に依存するものであり、その支えなくしては機能し得ない構造となっているものと考えられる。
 そこで、資源循環型社会の構築が円滑に達成されるためには、以下のような点を再認識して、それに必要な対策を講じていくことが不可欠と言わざるを得ない。
 第一に、社会の構成者である市民・事業者・行政のすべての主体が、資源循環型社会を創り上げていく主体であり、担い手であるという考えに立ち、各々の責任や役割を明らかにしたうえで、それぞれの主体による自主的・主体的な取り組みと各主体間の連携・協力関係を強化するための方策を探っていかなければならない。
 第二に、廃棄物の適正処理という「川下対策」を主眼とする現行体制に対して、廃棄物を発生時からコントロールし、上流段階から監視・規制を強めることなどのアプローチが今まで以上に必要なことを認識し、その考え方を基軸とした、「廃棄物管理」という概念を踏まえた廃棄物政策を進めていく必要がある。
 第三に、現行の廃棄物処理中心の体制における諸改革を進めるとしても、なお多くの課題が解決しきれないという状況認識に立たざるを得ず、その意味においても、現行のシステムは転換期にあるといえる。そこで、さらに根源的かつ抜本的なレベルで、新たな体系に立脚した視点に立って諸課題を真に解決していくことが可能となるように、現在の法体系の見直しを含めた、廃棄物政策の新しいスキームを構築する必要がある。


2.提言作成までの経緯

(1)都市と廃棄物管理に関する調査研究への取り組み
 今や廃棄物問題は、全国的視野に立った取り組みが求められるとともに、市民の日常生活に直結する都市自治体の行政において、最大の基本的課題の1つとして位置づけられるものであることから、早急に抜本的な対応と行動をとることが迫られているといえよう。
 このような状況のもと、全国市長会では、廃棄物問題は全国の都市共通の重要課題であるとの認識にいち早く立ち、廃棄物行政を適切に推進していくための基本的なあり方と、ごみの有料化導入促進等を内容とする、「廃棄物問題を中心とした都市の環境問題に関する提言」(平成5年6月)を取りまとめた。また、その後の廃棄物問題の一層の深刻化を受け、平成9年1月に「廃棄物処理対策特別委員会」を設置し、都市における廃棄物処理の現状と課題について検討を行いつつ、都市自治体の立場から国の政策等へ適宜意見表明を続けている。
また、日本都市センターでは、平成9年5月に全国市長会から「廃棄物のあり方等に関する調査研究」を受託し、直ちに「廃棄物に関する都市政策研究会」(座長 寄本勝美早稲田大学政治経済学部教授、以下、「研究会」という)を設置して、中長期的視点からの廃棄物管理の方向を探るための検討を開始した。
 そして、研究会が最初に着手したことは、次の2つであった。
 第一には、廃棄物問題を取り巻く現況を把握するため、上記の全国市長会提言以降の法改正や諸政策の取り組み動向について整理を行い、平成9年11月に公表した研究会中間活動報告の中で、「提言のレビュー」として取りまとめた。
 第二には、都市自治体における廃棄物管理に関する実態や政策動向等の把握のため、同年8月に全国の都市自治体に対するアンケート調査、「都市における廃棄物管理に関する調査」(全国市への悉皆調査、以下、「都市アンケート調査」という)を実施した。調査結果は、研究会の審議資料として活用するとともに、多くの都市自治体の参考データとなるよう、前述の中間活動報告でも公表したところである。

(2)平成9年度報告の基本姿勢及び概要
 研究会では、中長期的な観点に立脚し、廃棄物に関する制度や枠組み等を組み直す必要性とその方向性、市民・企業・都市自治体等が協働で取り組むリサイクル活動をより有効に展開するための基本原則やシステムの方向性を明らかにすることをめざして、引き続き調査研究を進め、「都市と廃棄物管理に関する調査研究報告」(平成10年3月、以下、「9年度報告」という)を取りまとめ、公表した。基本とした考えは、以下の4点である。

① 市民や都市自治体等によるリサイクル活動や廃棄物行政のこれまでの取り組み実績は、積極的に評価できるものである。
② 都市自治体の廃棄物問題は、「廃棄物処理」という次元に焦点を当てた短期的かつ後追い的な対応のみでは、その根本的解決が困難である。
③ 資源循環型社会構築のためには、廃棄段階以前の、生産・流通・消費の段階まで遡り、廃棄物の発生・排出抑制と資源循環のシステムとを織り込んだ、「廃棄物管理」という新たな広い観点に立って対応すべきである。
④ 市民の生活パターンや企業の行動パターン等のさらなる改善も必要不可欠である。
このような視点及び考えのもとに取りまとめた9年度報告の内容のうち、特に重要と思われる政策提言について述べると次のとおりである。
 まず、9年度報告は、資源循環型社会を構築するにあたっての基本的枠組みと政策のポイントについて触れており、これらの理念のもとに新しい枠組みとして、日本型の「循環経済・廃棄物法」の制定が必要であることを提言している。
 そして、市民・事業者・行政の各主体が協働して廃棄物問題に取り組むためには、廃棄物政策のポイントを見据えての対処が特に必要なことから、その体系を整理している(図1 フローチャート「リサイクル社会の仕組み」参照)。すなわち、廃棄物の発生から最終処分までの各段階において、各主体による減量化の取り組みを促進していくことが必要不可欠である。また、各段階での取り組みを大別すると、法・制度・基本方針等の枠組みについては、ナショナルポリシーの発揮が必要であり、国の果たすべき役割が大きい。一方、市民・事業者・自治体の個別の取り組みについては、ローカルポリシーの領域と言え、地域の実情に応じ、独自の政策展開が必要である。
 次に、多くの廃棄物管理に関する諸課題の中から、資源循環型社会を形成するため、都市自治体にとって特に重要と思われる、「自区内処理の原則と広域処理」「ごみの有料化」「廃棄物関連の技術開発」の3つを主要課題として取り上げている。
 第一に、自区内処理の原則と広域処理のあり方として、現在においても、自区内処理原則の意義は決して減じることはない。一方、一般廃棄物の排出量増大と最終処分場の確保困難などの事情も踏まえると、自区内処理原則をあくまでも基本・前提としつつ、自治体相互間で自主的に広域処理体制を整備することも必要との認識について触れている。
 第二に、ごみの有料化であるが、ごみゼロ社会を構築していくためには、発生抑制・排出抑制を促し、ごみの減量化等に有効な手段であるごみの有料化の導入促進が重要であり、有料化の導入にあたっては、市民自治の観点から、市民が積極的に議論に参加し、決定に参画していくことが不可欠であることを提案している。
 第三に、廃棄物関連の技術開発の方向について、製品開発では、再利用、再資源化、資源循環を想定した技術開発の重要性が認識されつつある。また、今日の環境問題の深刻化を踏まえると、廃棄物処理の技術開発は重要であり、焼却技術だけでなく、廃棄物の持つ資源的価値を最大限に有効利用するリサイクル技術に重点を置くべきとしている。そして、技術開発については、国の役割・責任がきわめて大きいことを指摘するとともに、自治体や市民等による廃棄物関連技術の全国的なネットワーク機能の整備が重要であると提言している。
 9年度報告の後半においては、「容器包装リサイクル法」「ダイオキシン問題」「産業廃棄物」の3つを緊急課題として取り上げ、前述で指摘している視点や枠組みの変革の必要性の観点も織り込みながら、その課題と対処方向を示している。まず、容器包装リサイクル法については、法制度の改善に向けての視点を提示し、実効性確保に必要な安定した再生資源市場の確立を求めている。次に、ダイオキシン問題では、川下の対応と併せて、塩化ビニール等塩素含有物質の製造・使用規制等の川上対策の必要性を指摘している。最後に、産業廃棄物への対応として、排出者責任の徹底とともに、国の役割を明確にし、適正処理・リサイクル等への行政の積極的関与が望まれることを提示している。
3.本提言の基本的方向

 平成10年度の本調査研究においては、広範囲にわたる政策諸課題を取り扱った9年度報告の内容を踏まえて、資源循環型社会構築のために、都市自治体にとって戦略的に特に重要と思われる重点課題に焦点を当てることにした。そして、それらの課題について、都市における廃棄物政策全般の改革と確立に活用されるよう、さらなる内容の深化を図るとともに、都市自治体のこれからの活動の展開にあたって参考となり、「物差し」ともなり得る政策提言を取りまとめることとした。その成果が本報告書であり、特に重要となる廃棄物政策のポイントを明らかにし、都市自治体の視点に立って、それらを簡潔かつ明瞭に示すよう心掛けた。
 廃棄物政策に係るポイントの抽出とそれに即しての提言の取りまとめにあたっては、次の3点について留意したところである。
 第一に、地方自治を尊重することと地方分権の潮流を踏まえることである。地方分権推進委員会の勧告を基にして平成10年5月に地方分権推進計画が閣議決定され、今日、地方分権は具体化の段階に入っている。その中にあって、廃棄物政策の領域においても、以前にも増して地域それぞれの自己決定と自己責任に基づいた政策形成が必要であり、またそれが促進されるような仕組みが必要とされている。すなわち、廃棄物問題は、まさに都市自治における基本課題であり、地域事情に即した政策展開が求められるのである。
 第二に、資源循環型社会の構築にあたって、市民、事業者(企業)、自治体及び国それぞれの役割と責任は、今後どうあるべきかという視点である。今後の都市における廃棄物政策においては、自治体の役割はもとより大なるものがあるが、行政のみならず、市民、事業者、さらには国が果たす役割が大きくなるものと考えられる。特に、発生抑制、排出抑制の観点から、市民及び事業者の果たすべき役割と責任は大きい。また、地方分権型社会においても、国がイニシアチブを取って、各主体とともに新たなシステムを設計し、その実現を図ることが必要不可欠である。すなわち、廃棄物政策全体の基本方針や基本的枠組み(ナショナルポリシー)を明示し、各地域における取り組み(ローカルポリシー)が実効性を発揮し得るように、ナショナルレベルでの制度設計を進めることが、今日きわめて重要である。その点では、国の果たす役割や責任には依然として大きなものがある。
 第三に、まちづくりの視点である。都市自治体の行政は地域の「総合行政」であり、まちづくり全般に責任を持つものである。廃棄物行政もその一環であり、廃棄物・リサイクル対策の推進を総合的なまちづくりの重要な政策として位置づける視点をとることがきわめて重要である。

4.本提言の視点と概要

 以上の基本方針を踏まえて、本報告書においては、以下に述べる3つの項目を提言することとした。第一の提言は、中長期的視点に立った廃棄物政策に関する枠組みや制度体系の改革に係わるものであり、第二、第三の提言は、第一の提言を踏まえながら、都市自治体自らが当面力を入れるべき事項に係わるものである。
 第一に、資源循環・廃棄物法(仮称)の制定に向けての提言である(第1章)。現行の廃棄物行政は、廃掃法に基づいて行われている。しかしながら、廃掃法に基づく廃棄物行政は、様々な構造的な課題を有していることは、9年度報告において明らかにしたところである。すなわち、廃棄物の性状と責任の区分の問題、発生抑制・排出抑制の具体的仕組みに欠くものがあること、そしてパッチワーク的に諸法律を整備せざるを得ないこと等による様々な矛盾があり、資源循環型社会の構築に向けて、新たな理念と具体的な仕組みを盛り込んだ、新しい包括的な法律の制定が必要とされている。本提言は、このような諸課題を受け、国レベルでの政策的な枠組みを抜本的に見直して、現行の制度体系を整序し、資源循環型社会構築を円滑に進めることを可能とする、新しい総合的な法律の制定の必要性を明らかにし、さらには、この法律の内容について、都市自治体にとって盛り込んでほしい必要項目について整理したものである。
 第二に、リサイクルの一層の促進に関する提言である(第2章)。資源循環型社会を構築するためには、廃棄物を資源として有効に活用するリサイクルシステムが不可欠である。そのためには、それぞれの地域において、市民・事業者・都市自治体がそれぞれの都市づくりの担い手として位置づけられ、環境負荷の少ない社会の形成に向けて、それぞれが連携して参画することが重要である。リサイクルによる排出抑制は、発生抑制と並び、廃棄物政策において重要な要素であり、本提言においては、都市において有効なリサイクルシステムの構築に活用できるよう、事例とともにその手法を示している。
 第三に、ごみの有料化の導入と促進に関する提言である(第3章)。平成5年度における全国市長会のいわゆる「ごみ有料化提言」以来、主としてごみの減量化を目的として、ごみ処理費用を有料化し、一定の額を市民に負担してもらう方法は全国の都市自治体に普及しつつあるが、その導入については様々な論議を呼んでいる。しかし、本来、廃棄物の処理は自己責任(発生者・排出者責任)において行われるべき性格のものであり、自治体はそれらの責任主体から付託を受けて廃棄物処理の事業を行うものである。本提言においては、こうした観点から、「ごみの有料化」についてその積極的意味を改めて確認するとともに、導入に至るまでの社会的な合意形成等に関わる手法を示している。
 なお、平成9年度に実施した都市アンケート調査のうち、ごみの有料化に関してその内容等の詳細について本年度補足調査を行ったところであり、その調査結果の概要を資料編として付している。また、研究会の平成9・10年度の2ヵ年にわたる審議経過も添付した。これらについては、参考とされたい。