都市と廃棄物管理に関する調査研究報告


第1章 資源循環型社会の構築に向けて
 
1.資源循環型社会についての基本認識
 (1) 持続可能な社会と廃棄物問題
 
20世紀末に表面化した地球環境問題はますます深刻化しており、このままでは、数十年以内に世界は重大な破局を迎えてしまうと懸念されている。こうした事態に対し、国内外で現在の経済・社会を変革しようという様々な変化が出始めている。
廃棄物問題は、地域の廃棄物処理をどうするかという問題だけでなく、大量の廃棄物を生み出す経済・社会の構造を見直し、資源循環型社会経済システムの構築という視点から取り組むべき重要な政策課題である。
都市自治体においても、現行法制度の枠にとらわれず、廃棄物政策に関して大胆な発想と政策の転換が求められている。
 
(2)循環経済の確立
 1990年代に入って、国際的にも、また国内的にも、廃棄物に関する考え方が根本的に変わってきている。大量生産・大量消費・大量廃棄という状況が地球環境問題の要因であることを認識し、速やかに環境負荷の少ない資源循環を基調とした社会経済システムに転換すべきだという考え方が、廃棄物政策の基調となっている。
すなわち、廃棄物問題は、「廃棄物処理」という次元で捉えるのではなく、生産・流通・消費の廃棄物以前の段階において、廃棄物の発生・排出を抑制すべきだということである。経済システムの中に廃棄物抑制と資源循環のメカニズムを組み込んでいくべきであり、そのために規制や経済的手法を積極的に取り入れていこうというのが、世界的な潮流となっている。
ドイツの循環経済・廃棄物法(循環経済の促進及び廃棄物の環境に適合した処分の確保に関する法律)の制定(1994年)、ごみの有料化(ユーザー・チャージの一種:公共によるごみ処理サービスを受けることに対し料金を支払うもの)の促進や環境負荷の高い製品に対する課徴金(プロダクト・チャージ:環境に負荷を与える製品の生産、輸入に際し、その質及び量に応じて料金を支払うもの)の導入等「経済的手法」に関するOECD理事会勧告(1991年)、ISO14000シリーズ(環境マネジメントシステムと環境監査に関する国際規格)などの企業の環境配慮行動の標準化等、持続可能な発展という命題に対して様々な対策が進められている。
わが国でも、1990年代に入って各種の法制度整備が行われてきた。90年代前半の法制度整備は、わが国が資源循環型社会への転換に踏み出した第1段階であったといえるだろう。しかし、大量生産、大量消費にまだブレーキがかかっているとは言えない。「ゼロ・エミッション」(廃棄物ゼロ)工場や環境マネージメントなど、最近の日本の企業の取り組みは高く評価できるものも少なくないが、社会全体としては、まだ大量生産、大量消費の方向を向いている状態にある。
わが国の廃棄物問題も、国内事情だけで考えるべきではなく、世界の潮流を踏まえた巨視的な観点からアプローチすべきであり、第2段階として、大胆な法制度改正を視野に置いた検討が急がれる。
 
2.廃棄物問題の現状と課題
(1)深刻化する廃棄物問題
 バブル経済の崩壊を契機として、廃棄物の発生量はやや減少傾向を示している。しかし、廃棄物問題はますます深刻化しており、自治体行政において最も重要な政策課題のひとつとなっている。
全国市長会が約1000名の市長、有識者を対象に行ったデルファイ調査によると、現在の都市問題の中で「非常に深刻な問題」とする回答比率がもっとも高かったのは、廃棄物問題(36.2%)である(「21世紀の都市及び都市政策に関する調査報告」1998.3)。

(2)「川下対応」の限界
 生産−流通−消費−廃棄というモノの流れを川に例えると、従来、廃棄物行政は川下だけで完結するように行われてきた。すなわち、処理施設を整備し、適正処理の体制を拡充していくことに、廃棄物対策の重点が置かれてきた。
その方策として、国は昭和38年に「全面焼却」という方針を打ち出し、都市自治体は国庫補助を受けて焼却施設の整備を進めてきた。現在、全国に約1800余施設もの一般廃棄物の焼却施設が稼働しており、これは、全世界の焼却施設の7割を占めるといわれる。国土が狭く、人口稠密なわが国では、衛生処理と埋立処分場の節約のために、全面焼却という考え方は決して間違った方向ではなかった。しかしながら今日、ダイオキシン問題という予期せぬ環境リスクの問題に直面し、処理施設のあり方について問題が投げかけられている。
 
(3)自治体負担の上に成り立つリサイクル
 また、リサイクルへの取り組みも、現状では自治体の分別収集が中心になっている。スチール缶・アルミ缶のリサイクル率は国際的にも極めて高い水準にあるが、これはほとんど、都市自治体の分別収集によるものである。また、元来民間で行われてきた古紙回収についても、集団回収への奨励金や回収業者への補助金等の支援を自治体が行ってきた。民間では採算が合わず、放置すればごみとなるものを、自治体の努力によってリサイクルしてきたのである。
このような自治体の努力にも関わらず、使い捨て容器は増大しつづけており、容器包装リサイクル法では、全ての容器包装について自治体が回収することになった。新たな法制度では、都市自治体の負担が軽減されることが期待されたが、かえって自治体の負担は増大し、都市自治体の不満は大きい。
また、自治体の支援にも関わらず、古紙の価格は低落の一途をたどり、市場では、自治体がコスト補填することを前提とするような価格が形成されつつある。
川下でのリサイクル、すなわち自治体の努力に対して、かえって川上では大量生産・大量消費が拡大しており、自治体の負担は限界に達しているといってよい。
 
(4)廃棄物処理経費の増大
このように、川下対策の拡大にともなって、廃棄物処理事業に係る経費も急増しており、都市自治体財政を圧迫する要因の一つになっている。厚生省の統計によると、全国自治体のごみ処理事業経費は、平成6年度に多少減っているものの、平成元年度(1兆2,611億円)から平成5年度(2兆2,833億円)にかけて81%増で、特に処理施設の建設・改良に係る経費にあっては、この間に3,122億円から9,820億円と、3倍以上にも増大している。今後も、ダイオキシン等公害防止対策としての施設改良や容器包装リサイクル法対応の資源分別など、コスト増の傾向は避けられない見通しである。
生活環境を保全するために、廃棄物を適正に処理することは都市自治体の重要な仕事であるが、環境リスクの増大や財政負担の点からだけでも、もはやこれ以上の対応は困難な状況になりつつあり、廃棄物を川下で完結して処理するという考え方は、限界に達している。
 
(5)共同処理、広域処理の課題
また、これまでは、当該区域内で発生する産業廃棄物を除く廃棄物については、自治体が処理する責務を負い、できるだけ自区域内=地域内で処理するという考え方をとってきた。
しかし、実際には、全ての廃棄物を都市自治体の行政区域内で処理することは困難である。最近、ダイオキシンのリスクを最小にするために、厚生省は焼却処理施設の大規模化と広域化を打ち出しているが、それだけではなく、処理施設整備にかかる財政負担の軽減や、処理施設の効率的な運転、埋立処分場の確保難等からも、共同処理、広域処理の必要性がある。しかし、現実には、他地域からのごみを持ち込むことに対して、住民の合意が得られないことも少なくない。
 都市アンケート調査(設問14・15参照)によると、厚生省の広域化の方針に対して、「必要である」が61%、「必要でない」が19%で、広域化が必要であるとする自治体が多い。しかし、広域化を前向きに「推進する」と答えた都市は18.4%にすぎず、「問題が多く推進することは困難」が21.8%、「推進しない」が9.3%にものぼっている。
このように、自区内処理原則の考え方と広域化という現実的な要請をどう整合させるかについては、各都市の状況が異なることもあり、それに対する考え方は様々である。
 
(6)廃棄物処理施設の立地難
 広域化においてのネックのひとつは、処理施設の立地に対して、住民の同意を得ることが困難であることである。ごみ処理施設等のいわゆる迷惑施設の立地に関しては、必ずといってよいほど、「NIMBY」(Not In My Back Yard(自分の裏庭はいや)=ごみ処理施設等の「迷惑施設」の立地に対する住民意識を表現した言葉)という問題が起こる。
都市アンケート調査(設問27参照)では、一般廃棄物処理施設の立地をめぐって地域住民との対立や紛争が起きているところは、133市(19.9%)にものぼる。
都市自治体においては、公害防止設備の充実や地域還元施設の整備等によって、住民に受け入れてもらえる施設づくりを進めているものの、ダイオキシン問題に代表されるように、予期せぬ環境リスクの発生が懸念されることが根底にあると考えられる。
 有害物質を含む製品を廃棄物としないような、生産、流通段階での対策が講じられなければ、処理施設の立地はますます困難になっていくことが懸念される。
 また、処理施設の整備にあたっては、市民参加や環境影響評価の実施等の手続面の整備とともに、市民の利用対象となるレクリェーション施設の併設など、市民が集う公共施設として整備することにより、都市の快適性を一層増すような施設とする視点を持つことが欠かせない。すなわち、処理施設は、市民生活にとって不可欠でかつ中核的な社会資本であり、総合的なまちづくりの一環として整備されるものという、正しい位置づけが必要である。
 
(7)現行法制度の問題点
 廃棄物処理行政の歴史をみると、明治33年(1900年)に汚物掃除法が制定され、昭和29年(1954年)に清掃法が制定された。そして、昭和45年(1970年)に廃掃法(廃棄物の処理及び清掃に関する法律)へ全面改正された。法制度の改正にともなって、廃棄物行政の重点は、衛生処理から環境保全のための処理、そして排出抑制やリサイクルの促進へと移ってきた。
前述したように、90年前後から国際的に廃棄物政策の転換が行われるようになり、わが国でも国際的な動向を踏まえて、平成3年(1991年)4月にリサイクル法(再生資源の利用の促進に関する法律)が制定され、10月には廃掃法の抜本改正が行われた。さらに、平成7年(1995年)6月には容器包装リサイクル法(容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律)が制定されるなど、一連の法制度整備が進められた。
しかし、廃棄物の発生の抑制、排出の抑制、再生利用の促進、事業者による再商品化等、従来の法制度に比べて川上に遡った対策を規定していることは評価できるが、都市自治体の立場から見た場合は、目的を十分に達成しているとは言えない。
 リサイクル法は、再生資源の需要を拡大することで資源循環を促進しようと意図されたが、ペナルティもない等のため、所期の目的を実現し得ているとはいえない。また、使い捨て商品の削減という点からの効果は乏しい。改正廃掃法では、ごみの排出抑制、再生利用の促進が掲げられたが、精神規定にとどまっている。
容器包装リサイクル法は、事業者にリサイクルの責任と費用の一部を負担させたということでは評価されるが、分別収集等は都市自治体の責務とされ、事業者が容器包装の削減やリサイクル促進に積極的に取り組むインセンティブが乏しい。また、中小事業者の再商品化義務が猶予または適用除外され、その分の費用を自治体が負担することになり、自治体の不満は極めて大きい。
都市アンケート調査(設問11参照)では、この法律を積極的に評価している都市自治体はごくわずかで、なんらかの見直しや改善を求める意見が95%にも達している。
リサイクルを促進するためには、都市自治体が分別収集の拡充を図っても、発生抑制や排出抑制にはつながらない。したがって、さらなる廃棄物の発生や排出を抜本的に抑制するという強い理念に立った、力強い施策が求められている。
 
3.資源循環型社会構築のための政策課題
 
(1)資源循環型社会の基本理念確立と合意形成 
資源循環型社会への転換は、急務の課題である。環境基本法(注1)には、「持続的発展が可能な社会の構築」が理念として掲げられ、廃棄物による環境負荷の低減などについて規定されている。また、産業界でも、経団連環境アピール(1996年7月:注2)や各社の環境憲章に、廃棄物の削減やリサイクルの推進が掲げられている。
しかし、こうした理念が、企業や行政、全ての市民に浸透しているとは言い難い。資源循環型社会を構築するためには、既存の制度を大きく転換していくことが求められている。もとより、制度の転換は緩やかに段階的に進められるものではあるが、事態の緊要性からは、市民や行政、企業等が価値観を転換するとともに、制度の転換を大胆に受け入れなければならないのである。
 そのためには、早急に、循環型社会の基本理念の確立と社会全体の合意形成を図る必要がある。その手段として、循環型社会の実現に向けたトータルなシステムづくりを目指す基本法の制定も考慮すべきである。
(注1)環境基本法
 公害対策基本法と自然環境保全法を統合し、新たな施策を盛り込んでわが国の環境政策の基本方向を示した法律。平成5年11月公布。
 
(注2)経団連環境アピール抜粋
「資源の浪費につながる使い捨て経済社会を見直し、循環型に転換すべく、製品の設計から廃棄までの全ての段階で最適な効率を実現する「クリーナー・プロダクション」に努めるとともに、旧来の「ゴミ」の概念を改め、個別産業の枠を越えて廃棄物を貴重な資源として位置づける。リサイクルを企業経営上の重要課題とし、計画的に廃棄物削減・リサイクルに取り組む」
 
(2)廃棄物政策のポイント
廃棄物の発生から最終処分までの各段階において、市民・事業者・行政による廃棄物減量化の取り組みをフローチャートに整理してみた(図「リサイクル社会の仕組み」参照)。
廃棄物政策では、廃棄物となる可能性のあるもののを、製造・販売段階で工夫する、すなわち、発生抑制が廃棄物減量化への取り組みの出発点と言える。都市アンケート調査(設問34参照)によると、68.6%の都市自治体が、廃棄物の発生抑制を最優先に取り組むべき課題としてあげている。これは、排出段階でのリサイクルの体制を整えつつある都市自治体が、次に目指すべき方向を示した結果ではないだろうか。この発生段階で注視すべきことは、消費行動と生活習慣を変えることや自治体等の発生抑制の啓発活動によるアプローチが、事業者の発生抑制に配慮した製品の開発努力の促進に大きく関わっていることである。
さらに、廃棄物の減量化は発生抑制のみでは十分な効果を得ることはできず、発生抑制を求めつつも、排出段階における取り組みをさらに推進していかなくてはならない。これまで、自治会・町内会や市民活動組織等地域コミュニティによる集団回収の促進が図られてきたが、これに並ぶリサイクルルートとして、事業者自らの回収を拡大・強化していかなくてはならない。この場合、特に資源として再利用可能なもの、自治体にかなりの負担となっているもの等について、事業者自らによる回収を促進することが望まれる。
もちろん、排出後のごみ処理過程において徹底した再資源化が重要であり、これまでも全国の都市自治体は、資源分別回収に努めてきたところでもある。事業者・地域コミュニティ・自治体の3者による回収努力があいまって、減量化がさらに促進されることを見逃してはならない。
以上の取り組みにより、廃棄物はかなりの減量化が図られるであろうが、処理段階においてもサーマルリサイクル(エネルギー回収)に努めるなど、可能な限りの再資源化を図り、最終処分量を最小限にすることが重要である。
 さて、これまで述べてきた各段階での取り組みについて大別すると、廃棄物処理に係る大きな枠組み、すなわち法・制度・基本方針等枠組みの構築については、ナショナルポリシーの発揮が必要であり、国の果たすべき役割に期待したい。一方、市民・企業・行政の個別の取り組みについては、地域の実情に応じ、独自の政策展開が必要である。いわゆるローカル・ポリシーの領域と言える。いずれにしろ、市民・事業者・行政が一体となって廃棄物問題に取り組んでいけるよう、政策展開のポイントを見据えていかなくてはならない。
 
(3)都市自治体の「守備範囲」の見直し
現行の制度では、産業廃棄物を除く廃棄物を一般廃棄物とし、その処理は都市自治体の責務であり、固有事務であるとされてきた。そのため、次々と出現する使い捨て製品や様々な廃棄物に対して、都市自治体はできるだけこれを受け入れ、適正処理する努力を行ってきた。その結果、企業も消費者も、廃棄物は自治体が処理することを当然と考え、廃棄物の発生や排出を抑制するという方策が十分講じられて来なかった。
つまり、都市自治体が廃棄物処理施設を整備すればするほど、事業者・消費者は安心して一方向にごみを送り出すこととなり、使い捨て製品の氾濫や有害物質を含む製品の増大などを招き、それに対処するために、さらに廃棄物処理施設の拡充を図るという、悪循環に陥っているのである。
廃棄物となる前に、またはなろうとする以前に対策を講じるという方向へ政策の転換を図るためには、都市自治体の手によるリサイクルや廃棄物としての処理は、民間セクターでは経済効率が低くなるものや、リサイクルによってかえって環境負荷が増大するもの、有害物質など、公的な管理が求められるもの等に限定して行われるべきである。
すなわち、今日、都市自治体が全ての廃棄物に関して責任を負うという考え方、すなわち廃棄物行政の守備範囲そのものを見直す必要があるのである。
 
(4)廃棄物の定義の見直しと多様な処理方法の導入
現行制度では、不要物を全て廃棄物と定義し、品目や排出源によって一般廃棄物、産業廃棄物の区分を行って、各々の処理責任を規定している。そして、例外として、有価で売買されるものは資源と見なし、廃棄物の定義から除外するという見解を取っている。
産業廃棄物は、法律と政令で定められた品目に限定され、資源化目的のものは自由に処理できるため、資源化目的という理由で不適正な処理を行い、環境を汚染する事例が見られる。
このような問題をなくするために、資源であるか廃棄物であるかについて、排出者と処理業者の取引形態や主観的な判断に委ねるのではなく、環境保全のために、不要物を包括的に管理する仕組みが必要である。
また、産業廃棄物と一般廃棄物の区分についても、古紙のように同じ性状の廃棄物であっても、排出源によって産業廃棄物に区分されたり、一般廃棄物に区分される等、処理または資源化にあたって区分や定義が問題とされるものが少なくない。
これからの廃棄物処理においては、産業系廃棄物と家庭系廃棄物を一緒に産業用燃料として利用したり、生ごみや食品加工廃棄物等の有機性廃棄物を堆肥化して農業利用する等、産業系の廃棄物と家庭系の廃棄物を別々の体系で処理するのではなく、地域の実情に応じた多様な処理と再利用の方法が取り入れられる必要がある。
さらには、自治体の負担を軽減するためには、家庭系の廃棄物処理についても、事業者の責任分担のあり方や、民営化、民間処理施設の活用等の方策を検討する必要がある。
また、逆に、産業系の廃棄物の適正処理のためには、たとえば適正処理困難物の処理等において、行政の関与のあり方についても検討する必要がある。デンマークでは、産業界と多数の自治体が共同出資して廃棄物処理会社(コムネケミ社)を設立し、有害廃棄物を有料で処理している。このような官民連携の広域処理の仕組みも、検討していく必要がある。もとより、その場合には、処理費用の負担について、汚染者・排出者負担の原則(PPP)が貫徹されるべきである。
このように、将来的には、産業廃棄物、一般廃棄物の区分や定義を見直していくことが必要となろう。
 
(5)ごみの有料化と経済的手法の導入
 現在、廃棄物処理は、市場経済のメカニズムの外にある。廃棄物の発生を抑制し、リサイクルルートを安定的に維持したり、新しいルートを開拓するためには、廃棄物処理を市場経済の枠組みに入れること、すなわち、税・課徴金などの手段によって、廃棄物処理コストを製品価格に転嫁したり、ごみ処理の有料化を進める必要がある。
 ごみの有料化(ユーザー・チャージの一種)については、1991年に、OECDが経済的手法のひとつとして推奨している等、国際的な潮流が見られる。さらに、有料化導入の意義の一つは、消費者の意識に変化をもたらすことを通して、製品の生産・流通段階にインパクトを与え、発生抑制や排出抑制を事業者が真剣に考えることを促進することにある。
 また、近年、EPR(Extended Producer Responsibility:拡大生産者責任)が議論されつつある。これは、資源・エネルギーの保全や廃棄物の減量等に対する事業者の責任を拡大する措置を講じようとするものであり、事業者による回収・再使用・リサイクルを義務づけ、市場のシステムを通して資源の循環が成り立つような仕組みを構築していこうというものである。たとえば、わが国においても、家電リサイクル法(特定家庭用機器再商品化法)案にはEPRの考えが盛り込まれており、不要となった製品の回収・リサイクルの義務を事業者が負い、そのための費用を消費者が負担するという仕組みになっている。他の特定の製品についても、このような仕組みを構築していくべきである。
 廃棄物の発生抑制、排出抑制を促していくためには、これらの有料化の推進や経済的手法の導入について、さらに検討してく必要がある。
 
(6)日本型「循環経済・廃棄物法」の制定
 以上のような考え方を取り入れ、今後、日本型の「循環経済・廃棄物法」の制定を検討する必要がある。
 現行制度では、廃棄物対策とリサイクル対策が別々の法体系となっている。これを一元化し、循環型社会の実現のために経済システムの転換を目指す基本法として位置づけるとともに、発生抑制や事業者による回収・リサイクルを法的に義務づけ、廃棄物問題を市場に内部化する方策を示すべきである。
また、廃棄物の定義を抜本的に見直し、ある物が廃棄物であるか否かを主観的な判断によるのではなく、客観的な要件を規定して判断し、再使用すべき物、素材リサイクルすべき物、エネルギー利用すべき物などに区分して、それぞれのルートに乗せ、廃棄物として最終処分する対象物をできるだけ減らすという考え方を導入することが必要である。
 都市自治体は、このような新しい枠組み構築のために、これまでの努力と実績の基盤に立脚しつつ、市民とともに、積極的な問題提起と政策提案を行っていくことが求められる。


目次