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第1章 資源循環・廃棄物(仮称)の制定に向けて

第1章 資源循環型・廃棄物法(仮称)の制定に向けて

 本章は、資源循環型社会の構築のため、資源循環と廃棄物を総合的に管理するという視点に立脚した新たな包括的な法律の制定が必要であるとの認識のもとに、その新法に盛り込むべき理念や考え方を、都市自治体の立場から提言するものである。
 9年度報告は、現行の廃掃法に基づく処理中心の廃棄物行政には様々な問題点や課題があることを明らかにしている。それは、特に、一般廃棄物と産業廃棄物の区分とその区分に対応した処理責任分担に係る問題、発生抑制や排出抑制の具体的な仕組みやインセンティブの弱さ、その結果生ずるパッチワーク的な諸法律の制定等である。したがって、資源循環型社会構築に向けて、廃棄物管理の視点、廃棄物処理における役割と責任の分担の見直しや経済的手法の導入等が体系的に盛り込まれた、総合的・包括的な資源循環・廃棄物法(仮称)の制定が強く要請されているといえる。
 本章は、都市自治体の視点に立って、新しい法律が備えるべき事項や条件を明らかにするものである。


1.新しい法律の目的
 物質循環や製品のライフサイクルをトータルにとらえ、資源の適切な消費、不要物の発生抑制、再使用、リサイクル及び廃棄物としての適正処理を実現するために、廃棄物の区分や役割分担を見直し、責任主体と事業主体の明確化や経済的手法などの政策手段の導入を図り、モノの流れに沿って資源循環と廃棄物を総合的に管理する体系を構築する。

 昨今においては、平成3年から平成9年にわたる廃掃法の改正、平成3年のリサイクル法の制定、平成7年の容器包装リサイクル法の制定、平成10年の家電リサイクル法の制定と、廃棄物・リサイクル関連法が相次いで改正・制定されてきた。
 しかし、廃棄物処理とリサイクルが2本立ての法律体系となっていることから、次のような問題が生じている。

①都市自治体が分別収集やリサイクル施設の整備を行っても、容器包装のワンウェイ化が進んでいるなど、上流対策がきわめて不十分であること(リターナブル容器の減少やペットボトルの増加など)。
②都市自治体がリサイクルに取り組むほど再生資源の余剰が生じ、再生資源の市場が混乱し、円滑な資源循環がかえって損なわれるおそれが出てきたこと(古紙の余剰問題など)。
③廃棄物の区分が曖昧なために、有価物と偽ることによって廃棄物規制を免れるなど、環境保全対策上の抜け道が生じていること(産業廃棄物の不法投棄や不適正処理)。

 このような問題の解決の方向としては、ドイツの「循環経済・廃棄物法」(1994年制定)のような、物質循環を一体的に扱う法律の制定が必要である。本提言では、その法律の名称を、仮称として「資源循環・廃棄物法」とする(以下、「新法」という)。
 新法の目的として、次のような点があげられる。

①衛生処理、地域環境保全の視点に加えて、地球環境の保全と適切な資源消費、物質循環の確立をめざし、大量生産・大量消費・大量廃棄社会から訣別するとともに、経済活動と廃棄物の発生抑制・リサイクルを両立させる社会づくりをめざす理念を明確にすること。
②最終的に処理する廃棄物を削減するために、廃棄物の発生抑制と排出抑制の仕組み、経済的手法や規制などの政策手段の導入を図ること。
③廃棄物の発生抑制やリサイクル、処理処分までを含めて、これらを総合的に管理する「廃棄物管理」の概念を導入すること。
  廃棄物管理においては、行政が引き続き中心的役割を果たすことになるが、それは市民、事業者等、全ての主体が分担・協力して担うべきものであること。
④廃棄物管理における原則(汚染者負担原則、自己責任(発生者・排出者責任)の原則(注1)、拡大生産者責任(注2)の概念など)を確立し、責任主体と事業主体とを明確に区分すること。
⑤廃棄物管理における政策の優先順位を明確にすること(発生抑制 → 排出抑制 → 再使用 → マテリアルリサイクル → サーマルリサイクル → 廃棄物としての中間処理 → 最終処分など)。
⑥廃棄物処理・リサイクルの事業展開においては、都市自治体や市民、事業者等が地域の独自性に応じて多様なシステムを構築したり、地域事情に応じた政策手段の選択ができるよう、地方分権的な考え方を取り入れること。

(注1)自己責任(発生者・排出者責任)
不要物をリサイクルのルートに乗せたり、廃棄物として適正な処理を行う責任は、不要物の発生者、排出者にあると考えるべきで、本提言ではこれを自己責任と名付けている。また、発生者には、製品の製造販売事業者も含むものと考えるべきである。

(注2)拡大生産者責任(Extended Producer Responsibility:EPR)
 従来の生産・流通業者の責任範囲は、生産・流通段階及び消費段階にとどまっていたが、これを行政の責任範囲と従来は考えられてきた廃棄物処理段階(消費後の製品の管理に関する資金的・物理的責任)にまで拡大するという考え方。現在、OECDを中心に、その概念整理と制度化に向けての検討の詰めが進められている。

2.廃棄物の定義と区分の見直し
 廃棄物管理のためには、現行の廃棄物の定義や区分を抜本的に見直し、廃棄物として排出される以前の不要物まで含めて、経済活動から発生する不要物をトータルに捕捉するような定義と区分が必要である。
 新たな廃棄物の区分は、排出主体によって行うのではなく、リサイクルの可能性や有害性などの性状に応じて客観的な要件によって区分し、それらを処理する主体や責任主体は別に定める方が合理的である。

 現行の一般廃棄物、産業廃棄物の区分は、廃棄物の性状による区分と処理責任による区分が混同されているため、同じ性状の廃棄物でも、排出主体によって一般廃棄物とされたり産業廃棄物とされる場合がある。また、有価か否かといった取引形態や排出者の主観的な判断で廃棄物とされたり、資源物とされるなど、不合理な面が多い。
そこで、まずは不要物を包括的にとらえた上で、リサイクルの可能性に基づいて、「リサイクルすべきもの」と「リサイクルの不可能な廃棄物」との2つに大きく区分する必要がある(図2「廃棄物の区分の見直しと処理処分までのフロー」参照)。そして、後者の廃棄物については、有害性などの性状に応じて、「処理施設で廃棄物として安全に処理・処分できるもの」、「有害物質を含んだり処理過程で有害物質を生成する可能性があるもの」、「有害性、危険性が高く特別な管理が必要なもの」など、客観的な要件によって区分することが必要である。

 これらの区分をもとにして、それぞれの管理あるいは処理責任を設定していく必要がある。第一義的には、発生抑制、排出抑制のために事業者の処理責任等を確立する。その上で、公共関与のあり方を見直していくのである。すなわち、現在、廃棄物処理に特化している都市自治体の責任と権限を、再生利用物(リサイクルすべきもの)及び廃棄物の総合的な管理が可能となるように改めて位置づけていく。また、産業廃棄物の監視等を行っている都道府県についても、その公共関与のあり方の見直しを図るべきである(図3「廃棄物の総合管理に向けた責任範囲の見直しイメージ」参照)。

以下に、前述の区分に基づき、その要件や処理責任等を例示的に示しておく(表1「再生利用物・廃棄物の性状と管理の区分の詳細(例示)」参照)。なお、各々の自治体が、具体的にどの廃棄物をどの程度の量まで受け入れるかは、こうした新たな区分を基本としつつ、地域の自治を尊重する観点から、それぞれの自治体において地域の状況やニーズ等を踏まえ、市民の参画を得て策定される、「廃棄物管理に関する計画」の中で定め得ることができるようにすべきである。


(1)リサイクルすべきもの(再生利用物)
 新法では、不要物を包括的に管理するという観点から、まず、廃棄物として処理する以前の再生利用可能なもの、素材回収可能な製品等を「再生利用物」(仮称)として区分する必要がある(なお、「再生利用」とは、再使用、原材料リサイクル、エネルギー回収など広義のリサイクルをいう)。
 再生利用物は、再生利用を優先すべき不要物であって、排出者が客観的に判断できるように具体的に示す必要がある。
 その指定の要件としては、下記のような条件が考慮される必要があろう。

①再生利用のルート、技術が既に存在しているもの(古紙、ボロきれ、容器包装など)
②技術的に再生利用が可能であり再生利用が望ましいが、現状では、コストや回収ルートの点で廃棄物として処理されているもの(家電製品、自転車、事業活動で生じる食品残渣・有機系廃棄物など)
③回収・再生利用をすることが、環境保全上の目的を達成すると思われるもの(乾電池、蓄電池、塩ビ製品(注3)など)
④再生利用することが、大量の資源・エネルギー消費につながらないこと

 再生利用物は、原則として廃棄物としての処理ルートに乗る以前に回収すべきものであり、市場経済活動の中に回収・再生利用を組み込んでいくことが望まれる。そのためには、経済的なインセンティブを活用した回収システムの構築が必要である。

(注3)塩ビ製品
「塩ビ」は、できるだけ製造・使用規制すべきものとして9年度報告において位置づけているところである。

(2)処理施設で廃棄物として安全に処理・処分できるもの(第一種廃棄物)
 「第一種廃棄物」(仮称)とは、焼却や埋立処分をしても環境汚染をもたらさない廃棄物(生ごみ、紙くず、木くず、し尿、浄化槽汚泥など)である。言い換えれば、都市自治体が最低限、事業主体として処理することが社会的に合理的だと考えられる廃棄物である。
 第一種廃棄物は、都市自治体が事業主体となって地域の実情に応じた処理方法で処理し、原則として「自区内処理」を行うものとする(もとより、複数の自治体による共同処理を妨げるものではない)。
産業廃棄物を除く廃棄物を一般廃棄物として、都市自治体がその処理を行うこととされている現行規定から、都市自治体が処理することが合理的であると想定される廃棄物を限定し、それ以外の廃棄物については広域処理や民間の処理を行うという考え方に基づいた区分である。

(3)有害物質を含んだり処理過程で有害物質を生成する可能性があるもの
   (第二種廃棄物)
 「第二種廃棄物」(仮称)とは、有害物質を生成する可能性があるため、高度な公害防止装置を備えた中間処理施設や処分場で処理処分する必要がある廃棄物であり、従来の産業廃棄物に加えて、家庭や事業所から排出される有害物質を含む製品などをも包含する概念である。
 素材や性状が同じでも、産業廃棄物、一般廃棄物という区分がなされてきた従来の規定を見直し、素材や性状が同じものは同じように処理をするという考え方に基づいている。
 こうした第二種廃棄物は、事業者による処理を原則とするが、事業者と都市自治体との共同事業や都道府県が事業主体となって適切な処理を行うことも検討する必要がある。現在、産業廃棄物の処理が事業者任せになっている状況から、公共的な処理体制を整備するとともに、産業廃棄物以外の有害廃棄物についても合わせて処理する体制を整備する必要があるという考え方から、このような区分が必要と考えるものである。

(4)有害性・危険性が高く特別な管理が必要なもの(特別管理廃棄物)
 「特別管理廃棄物」(仮称)とは、現行の特別管理廃棄物の考え方とほぼ同様の概念である。第二種廃棄物より有害性や危険性が高く、排出源から特別な管理が必要とされるものであり、事業者による回収・処理処分を基本とするものである。
 ただし、現行制度では、例えば感染性廃棄物のように、同じ性状でも排出源によって特別管理廃棄物に指定されたり、されなかったりするものがある。また、使い残しの農薬、殺虫剤やその容器などについても、管理を厳正に行う必要がある。
 こうした点も踏まえて、特別管理廃棄物の区分を大幅に見直す必要がある。その指定にあたっては、下記のような点に留意する必要があろう。

①排出源(産業活動及び家庭)に関係なく、明らかに有害性が認定される化学物質等については、すべて特別管理廃棄物として指定すべきである(使い残しの農薬や溶剤、医薬品など)。
②廃棄物処理の過程で、爆発や火災の原因となる可能性のあるガスボンベ、灯油・ガソリンタンク等についても、特別管理廃棄物として指定し、別途の回収ルートを整備すべきである。
③一般消費財として利用される商品であっても、廃棄物処理の過程で有害物質を生成する可能性のあるもので、分別が容易なものは特別管理廃棄物として指定し、別途の回収ルートを整備すべきである(農薬、殺虫剤等の容器)。
④社会の高齢化にともなって家庭から発生する注射針などが増加しており、こうした医療器具や医療品類などについても、特別管理廃棄物として適切な排出管理と処理の管理を行う必要がある。

表1 再生利用物・廃棄物の性状と管理の区分の詳細(例示)
A  再生利用物

  ・再生利用のルート・技術が既に存在している製品、技術的には再生利用可能だが、現時点ではコストや回収ルートが未整備のため廃棄物として処理されているもの、環境汚染防止のために、回収・再生利用すべきもの、その他再生利用を優先させるべきと考えられるもの。
・原則として、経済活動の中に回収・再生利用の仕組みを組み込み、事業者が回収・再生利用のルートを構築するとともに、排出者の責任において適切な回収ルートに乗せる。
・都市自治体は、民間リサイクル事業の育成等の基盤整備や支援を行うほか、地域における再生利用ルートの監視、市民や事業者の指導にあたる。
  ・事業者が自ら回収したり、再生利用のルート確保ができない場合には、適正なコストを支払って、都市自治体に委託しうることも検討する。
・国は事業者を監督し、リサイクルのシステムづくりを指導する。

B 第一種廃棄物

  ・焼却や埋立処分をしても環境汚染をもたらさないもの(有機物やリサイクルできない紙くず、木くず、し尿・浄化槽汚泥など)。
・第一種廃棄物については、都市自治体が中心となって適正に廃棄物管理を行う。さらに、一般家庭より排出されるものの処理については、都市自治体が事業主体となる。事業活動により排出されるものは、原則として事業者が自ら処理することとし、都市自治体はその監視・指導を行う。また、事業者は適正なコストを支払って、都市自治体に処理処分を委託することもできる。

C 第二種廃棄物

  ・有害物質を生成する可能性があるため、高度な公害防止装置を備えた中間処理施設や処分場で処理処分する必要がある廃棄物(プラスチック製品、工場等からの産業系廃棄物)。
  ・第二種廃棄物は、責任主体たる事業者による処理が原則であるが、家庭から排出されるものについて、事業者による回収・処理処分が困難なものについては、事業者は適正なコストを負担して、都市自治体に処理処分を委託することもできる。
  ・第二種廃棄物のうち、家庭系について、都市自治体(または市町村の広域行政体)においても処理が困難な場合にはその要請と協議に基づいて、また、産業系については、事業者からの委託に基づいて、都道府県による処理・処分体制を構築することもできることを検討する(都道府県管理の可能性)。
  ・都市自治体は、都道府県とともに、事業者が行う回収・処理の流れを把握し、不適切な処理を監視する。
・国は事業者を監督し、回収・処理システムづくりを指導する。

D 特別管理廃棄物

  ・有害性や危険性があり、例えば感染症の危険などのため、特別な管理が必要とされるもの(有毒物、医療器具等)。
  ・特別管理廃棄物は、事業者による回収・処理が基本であり、家庭から発生する有害廃棄物についても事業者が適正な回収・処理のシステムを整備する責任を負う。
  ・都市自治体は、都道府県とともに、事業者が行う回収・処理の流れを把握し、不適切な処理を監視する。
・国は事業者を監督し、回収・処理システムづくりを指導する。


3.役割分担の考え方 ―責任主体と事業主体の区分―
 上述のような廃棄物の区分に応じて、それぞれを適切に管理する役割と責任の分担を明確にしていく必要がある。役割と責任分担の見直しにおいては、第一義的には廃棄物管理の責任は発生者・排出者にあることを前提とし、汚染者負担原則に基づいた費用負担の考え方を明確にすることが必要である。また、資源循環型社会の構築と地球環境時代の進展のためには、「責任主体」と「事業主体」を分けて考え、分別や費用負担の義務づけなどによって責任を果たすべきことと、合理的、効率的な仕組みを実際に構築し、運営していくことを区別して論じる必要がある。このような考え方に基づいて、事業主体としての自治体の役割を見直す必要がある。

 現行の廃掃法でも、自己処理責任や、製品が廃棄物として処理される場合において処理困難にならないようにする等の事業者責任が規定されているが、一般的には、一般廃棄物は都市自治体の処理責任と理解され、都市自治体もそのような考えに基づいて排出される廃棄物を受け入れてきた。
 しかし、都市自治体が廃棄物処理を行うのは処理責任があるからではなく、都市自治体が事業主体として廃棄物処理を行うことが、衛生処理や環境保全のために合理的と考えられるからであり、また、そのような考え方は、都市自治体が市民・事業者と一体となって資源循環型社会を構築することに大きく寄与するものと考えられる。
 すなわち、事業者から発生・排出されるものや、家庭から排出されるものはすべて都市自治体が処理する責任を負うのではなく、適正に廃棄物を処理する責任主体は第一義的には発生者・排出者にあり、責任主体の付託によって、事業主体たる都市自治体が処理を行うという考え方を明確にする必要がある。その上で、責任主体たる市民(消費者)や事業者(企業)の様々な取り組みに対して、事業主体である都市自治体が政策的に様々な支援を行うという関係に再構築されるべきである(図4「責任主体と事業主体の関係」参照)。なお、もとより、市役所から排出される廃棄物については、都市自治体が責任主体に位置づけられるものであることは言うまでもない。
このように、役割分担や責任分担を抜本的に見直していく必要があるが、その検討にあたっては、次のような考え方を踏まえるべきである。

①再生利用物や廃棄物を適切な回収・処理ルートに乗せて、リサイクルや適正処理を行う責任主体は、廃棄物の発生者・排出者である。
②拡大生産者責任の考え方に基づいて、製造販売事業者も責任主体としての役割を担うべきである。
③市町村は事業主体として廃棄物処理を行うが、どのような廃棄物をどの程度受け入れるかは、事業主体の策定する計画において、市民等の意見・ニーズや地域の実情を踏まえつつ、決めていくべきものである。
④「第二種廃棄物」として示したような、従来の産業廃棄物や市町村が事業主体として処理できないものについては、市町村の共同処理方式や都道府県が事業主体となることも検討すべきである。
⑤事業主体と責任主体を区分することによって、責任主体の費用負担原則を明確にする必要がある。


(1)市民の役割と責任
 資源循環型社会においては、市民(消費者)も、排出者としての責任があることを明確にする必要があり、地球環境時代における市民には、自己責任の主体であるという位置づけが求められる。すなわち、家庭から排出するものについての責任主体は、第一義的には市民である。このような考え方に基づいて、市民は、事業主体が用意する収集・処理ルートに乗せるための分別や販売店等への返却、回収拠点までの運搬等の義務を有するとともに、収集・処理に必要なコストを税や手数料で負担する義務があることを明確にすべきである。

 大量消費・大量廃棄という図式には、市民の消費形態にも責任の一端があり、循環型社会構築のためには市民の役割が大きいことを明示することが望まれる。資源循環型社会とは、そうした大量消費・大量廃棄からの脱却をめざすものであり、市民が自らの責任において消費形態を変えていくことなどによって、排出抑制がなされ、ひいては発生抑制がなされるのである。
 廃棄物処理においては、市民(消費者)の責任主体としての位置づけを明確にし、都市自治体は、責任主体としての市民からの付託に基づいて処理を行うという考え方を確立する必要がある。すなわち、「サービス行政」と考えられてきた都市自治体の廃棄物処理事業を見直し、本来は市民が廃棄物の排出主体として自己責任によって処理すべきものを都市自治体が付託されて処理を行うという考え方に転換する必要がある。
 このような考え方に基づいて、自治体や事業者などが用意する収集・回収・処理ルートに乗せるための分別や販売店等への返却、収集・回収拠点までの運搬等は市民の義務であること、市民には、収集・回収・処理に必要なコストを負担する義務があることを明確にすることが要請される。
 さらには、自治体や事業者の収集・回収・処理システムの構築に積極的に参加する役割が市民には求められること、社会的合意形成において市民参加の機会が広く提供される必要があることも合わせて強調されなければならない。


(2)拡大生産者責任の考え方に基づいた事業者責任の拡大
 事業者には、責任主体として、発生・排出段階における廃棄物の適正な管理に努める責任があると同時に、拡大生産者責任の考え方に基づいて、製品のライフサイクル全般を通して廃棄物の発生抑制に努め、リサイクル困難、処理困難にならないような製品づくりを行う義務があることを明確にする必要がある。
 また、使用済み製品の事業者による引き取り、リサイクルの仕組みの構築とその原則の確立を図っていく必要がある。

 廃棄物問題においては、事業者の責任と役割をさらに拡充する必要がある。事業者は、①廃棄物の発生者・排出者、②将来不要物・廃棄物となる製品の供給者、③消費者、という三つの性格を持っている。このいずれの性格においても、廃棄物の発生抑制と再生利用促進という観点から事業者の責任は重要である。
 特に、製品の製造販売に関わる事業者に対しては、容器包装リサイクル法、家電リサイクル法において取り入れられつつある拡大生産者責任(EPR)の考え方を明確にするとともに、合理的・効率的なシステム構築のために、リサイクル・廃棄物処理の事業主体としての役割も明確にする必要がある。
 事業者の責任と役割については、下記のように整理できる。

①製造販売過程でできるだけ資源・エネルギー消費を抑制し、廃棄物の発生を抑制する責任
②事業活動に伴う廃棄物の排出者として、自らそれを適正に管理し、リサイクルや処理を行う責任
③リサイクルしやすく、廃棄物として処理困難にならないような製品を製造販売する責任
④事業者が事業主体として回収・処理(リサイクル)した方が合理的だと考えられる使用済み製品について、それを回収・処理(リサイクル)する仕組みを構築する責任
⑤消費者として再生品や環境負荷の小さい製品を選択購入する責任

 現行法においても、リサイクル困難、処理困難にならないような製品づくりについての規定があるが、精神規定にとどまっており、実効性はほとんどない。新法においては、製品の設計段階でLCA(ライフサイクル・アセスメント)と情報公開を義務づける等の、実効性ある規定を設ける必要がある。また、製品の素材等についての表示の義務づけや情報公開も必要である。
 ただし、一方的に廃棄物問題の責任を事業者に強いるのではなく、汚染者負担原則、自己責任原則と整合を図りつつ、事業者に適切な役割を果たすことを求めていこうというものであり、事業者が講じる措置について必要なコストの一部は排出者である消費者が負担する必要があることは当然である。
 また、事業者に対しては責任を強制するだけでなく、経済的なインセンティブによって誘導するような手段を講じていく必要がある。

(3)都道府県の役割
 現行法では、都道府県は産業廃棄物の処理基本計画の策定や産廃処理業者の監督等の役割を担ってきた。しかし、産廃問題の深刻化から、産廃処理への公共関与の拡大が必要とされており、都道府県には、広域的な処理施設整備等の事業主体としての役割も期待される。
 また、広域的に処理をした方が適切な廃棄物(有害廃棄物等)の広域処理体制の整備などについても、許認可や監督権限以上の事業主体としての役割を検討する必要もあろう。

 現行制度にいう産業廃棄物の適正処理のためには、すべてを民間任せにするのではなく、公共関与によって計画的に適切な処理施設を整備していく必要がある。
 都道府県には、このような広域処理施設の整備や運営の事業主体(都道府県単独、市町村との共同、民間との共同など様々なパターンが考えられる)としての役割も期待されるところである。特に、産業廃棄物の適正管理について公共関与の拡大が求められているところでもあり、その一環として、都道府県には事業主体としての役割も望まれよう。
 また、第二種廃棄物のうち家庭系の廃棄物についても、市町村からの要請と協議に基づいて、都道府県が事業主体として広域的な処理施設整備を行う役割も期待される。
 もとより、当然のことながら、これらの廃棄物処理の責任主体は発生者・排出者であり、市町村、都道府県はあくまでも事業主体として処理の仕組みを整備するにとどまるもので、発生者・排出者からの委託と適正なコスト負担を前提として処理を行うという考え方に立脚したものである。

(4)国の役割
 国は、リサイクル・廃棄物処理を含めた廃棄物管理についてのグランドデザインを提示し、各主体がそれぞれの責任や役割を果たせるように支援したり、事業者に関しては適切な規制や監督を行う責任がある。また、経済政策として、リサイクル促進のための再生資源市場の拡大等を図っていく必要がある。

 国は、資源循環型社会の構築を促進するために、国全体としての合理的・効率的かつ安全なリサイクル・廃棄物処理システムのグランドデザインを国民に提示する責任があり、地域において、都市自治体をはじめとする各主体がそれぞれの役割や責任を十分に果たせるよう、これを支援する責任がある。そのためには、縦割り行政の弊害から脱却して、中央政府の諸機関が協力・連携して、資源循環型社会構築のための包括的な制度の体系を設計し、政策の総合化が図られることが、市民・事業者・行政が一体となった活動を展開していくためにも、必要不可欠となっている。また、このことは、地域の「総合行政」を担う全国の都市自治体にとっても、強く望まれるところである。
 また、国のいま一つの大きな役割として、新しいリサイクル・廃棄物関連の技術開発がある。自治体においても地域に応じた適正処理技術等の研究開発機能の整備・強化が求められているが、ダイオキシン類対策等に代表されるように、国でなければできない先端的な技術開発が少なくない。このような点において、国の役割や責務をさらに拡充する必要がある。
 また、拡大生産者責任の考え方に基づいた事業者に対する支援、監督等については、それぞれの地域においては自治体がその役割を担うが、自治体の行政区域にとらわれない活動の部分については、国が担うべきである。併せて、リサイクル促進のために、国の経済政策の一環として、再生資源市場の拡大を図っていくべきものと考えられる。

4.都市自治体の役割の明確化
 廃棄物の区分の見直し、廃棄物管理の責任主体・事業主体の見直しを踏まえ、都市自治体の廃棄物管理における役割や廃棄物処理事業のあり方の再構築が図られる必要がある。
 また、分権型社会において、廃棄物管理とまちづくりとを連動して進めていけるような仕組みづくりを可能とする法体系と財政措置が必要となっている。
 分権型社会に向けて、地方政府としての都市自治体のみならず、地域の市民と事業者を含めたガバナンスの確立が、廃棄物政策の分野でも必要とされているのである。

 ここまで見てきたように、市民、事業者、都道府県、国の各責任主体・事業主体の責任範囲と役割分担を見直し、それを推進する仕組みが構築されていけば、現在の都市自治体の果たすべき役割も大きく変化することになる。
 資源循環型社会を構築していくために、都市自治体は廃棄物処理の事業主体としての役割をより重点化するとともに、総合的な再生利用物・廃棄物の管理という観点からの役割をさらに拡大していくことが、強く求められることとなろう。
 新たな法体系のもとでの都市自治体の役割は、下記のように考えられる。

①比較的処理が容易で有害でない廃棄物(第一種廃棄物)について、事業主体として廃棄物処理事業を運営する役割
②自己責任、拡大生産者責任等の廃棄物管理の原則に基づいて、市民や事業者が適切にその責任・役割を果たせるよう調整したり、都市全体の廃棄物のフローを管理・監督する役割
③自ら事業主体として処理できない廃棄物については、周辺市町村や都道府県と連携して広域的な処理体制を整備・推進する役割

 新法においては、都市自治体がこのような広範にわたる役割を発揮できるよう、都市自治体に総合的な廃棄物管理に係わる権限があることを確認し、また、明確に規定しておくべきであろう。今後の分権型社会においては、自治体のみならず、地域の市民・事業者等を含めた、地域それぞれの様々な主体の自己責任に基づいて、地域づくりを進めていく必要があり、都市自治体には、各主体相互による協働の仕組みを作りあげるコーディネーターとしての役割が求められる。廃棄物管理においては、発生・排出に対する監視機能・権限の強化、再生利用物のリサイクルの仕組みを構築するコーディネーターとしての能力・権限の強化などが、必要とされるのである。
 特に、有害性があり事業活動で生じる第二種廃棄物や特別管理廃棄物については、都市自治体がその流れを把握し、不適切な処理を監視する権限を持つ必要がある。現行制度では、政令指定都市を除いて、市町村には民間の産廃処理施設に対する監督権限がないが、新法では都市自治体に民間処理施設の監督権限を与えるべきである。
 また、国土利用計画や都市計画等、関連の諸制度を廃棄物管理の視点から見直し、整備して、都市自治体において、まちづくりとの連動による地域独自の廃棄物政策が企画・実施される体制をさらに強化することが必要である。さらには、都市自治体の主導により、まちづくりとリサイクルや廃棄物関連の施設整備が総合的かつ計画的に連携して実施され得るような、総合的な財政措置が国において講じられることが強く求められるところである。

5.立法過程等への自治体参加
 現行の廃掃法は度々改正されたり、政省令によって細かい規定が設けられてきたが、廃棄物行政、さらには地域環境の管理に関る責任の多くは、主として自治体が担っており、自治体の意見が新法の立法過程及び執行過程において、十分かつ的確に反映される仕組みが必要である。

 新たな法体系の構築において、自治体の意見が的確に法律に反映されるべきことはいうまでもないが、さらには、その後の運用、執行過程においても自治体の意見が反映できるような仕組みを講じる必要がある。
 廃棄物行政の責任の多くは自治体が担っており、現場における様々な状況に関する知識と情報、政策上のノウハウも最も多く有している。そのため、新法を有効なシステムとして構築するには、これまでの自治体の様々な経験やそれに基づいて形成された政策理念等が十分かつ的確に反映される必要がある。これまでも、廃棄物関係の法案の作成・立案にあたっては、審議会等における意見聴取などが行われてきてはいるが、地方分権の観点からも、これまで以上に、自治体からの意見表明の場が適切に設定され、その声が的確に法律に反映されることが強く望まれる。
 さらに、その後の運用、執行過程においても自治体の意見が常に反映されるような、自治体参加の仕組みを講じることが求められる。