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第3章  都市自治の基盤強化

新時代の都市政策

第3章 都市自治の基盤強化
第1節 市民との協働
都市自治の最も重要な基盤は市政に寄せる市民の信頼と協力である。地方分権時代の自治運営が地域の自己責任、自己決定をより重いものにしている今日、「わがまち」の共感のもとに市民と都市自治体の協働関係が築き上げられることは何にも増して重要である。もちろん、そのなかで市民の代表者によって構成され、都市自治体の意思決定機関である市議会が適切な役割を果たすべきことはいうまでもない。
このような緊密な協働関係の基盤として必要なものは、情報の共有、交流である。最近、アカウンタビリティ(説明責任)という言葉がしばしば使われ、都市自治体の行政運営や政策決定等について、市民が理解し納得するように、その合理的な理由や根拠を十分に説明し、さらに実施した政策の成果についてもできる限り数値を示して明らかにすることの重要性を指摘する意見がある。都市自治体ではそれぞれのスタイルでそのような努力をしてきているが、今後、市民との間で文字どおりのパートナーシップを成立させていくためにはこのような努力がますます必要になろう。都市自治体の現状、将来の課題等について市民が的確な情報を持ち、政策判断について都市自治体とともに考えることができるようにすることは、市民の信頼と協力を得るために何より必要であり、情報公開や透明性の確保の本質的な意義はここに求められるべきであろう。
市民は都市行政の客体にとどまるものではない。市民が受けるサービスにはその供給主体が市民自身であるものも多いが、高齢者向けの福祉サービスのように市民と都市自治体とが協力、分担しつつ供給されるものがあり、あるいは、防災体制の確立、廃棄物の適切な処理のように、いかに都市自治体が懸命に努力しようとも市民の自覚的な協力がなければ、決して効果の上がらないものがある。むしろ、都市自治の運営のなかに市民が主体となった都市自治体との適切な協働関係が存在しない限り、市民にとって望ましい都市自治体は成立しないとさえ言えよう。その意味で、災害発生時などさまざまな分野でのボランティア活動は、地域、企業、団体などの自主的な活動とともに市民生活にとって重要なものとなっており、これらの諸活動と都市自治体との連携もまたますます重要となっている。
コミュニティーレベルでの市民の協働には特にさまざまなものがあり、市民の日常生活の上でも重要なものが多い。地域の公民館の運営、自主防災体制の整備、地域の福祉活動等はもとより、地域のまちづくり事業への意見集約等多彩である。現在、「地縁による団体」に対し法人格を付与する制度が設けられているが、このようなコミュニティーにおける市民活動の重要性にかんがみ、この制度を一歩進めて、アメリカのネーバーフッド・ガバメント等の仕組みを参考にし、近隣自治組織としての位置づけを明確にする制度の創設について検討することも課題の一つとなろう。これは、人口規模、面積が大きい都市にあっては、地域内の行政活動の一部も分担する自治システムとしての可能性を有することにもなる。
市民の活動を考える上で今後ますます重要性を増すものは、女性と高齢者であろう。女性の社会進出が、目覚ましくなるなかで「男女共同参画社会の形成」が取り上げられている。また、高齢者の増加に伴い、その介護が大きな課題となっているが、地域社会を支えることのできる元気な高齢者も多い。これまで述べてきたことのほか、次代を担う子供たちの健やかな成長等、地域社会や家庭において真剣に取り組まなければならない問題がある。男性も女性も、高齢者も青壮年も、それぞれがその力を発揮しつつ、より豊かな市民生活を実現するため、市民と都市自治体との協働関係を一層確かな力強いものへと築き上げていかなければならない。

第2節 広域の連携
今日、市民の日常生活は、個々の都市の境界を超え隣接市町村を含む一つの圏域内で営まれるようになっている。さらに、経済、文化等の諸活動は、遠く離れた大都市はもとより、地球規模のグローバルなかかわりのなかで行われるようになってきている。
いうまでもなく、都市自治の運営もそのような状況に即応して行う必要があり、従って、都市自治体は地域の実情に応じつつ、隣接市町村との連携・協力のもとに公共サービスの提供や都市基盤の整備等を進めてきている。そのために、広域連合、一部事務組合、事務委託等の諸制度を活用しているが、最近改めて市町村の合併が大きく取上げられている。地方六団体においては、自主的な市町村合併の推進方策についての共同検討を行い、結論をまとめたところである(「自主的合併の推進方策に関する研究会報告書 -自主的な市町村合併の推進について-」平成10223 )。
社会経済情勢の変化、地方分権の進展等により、市町村行政がますます複雑化・専門化するにつれ、その行財政基盤の強化が求められており、その対応のあり方として特に日常社会生活圏として一体化しているような地域では、市町村合併の問題について従来以上に積極的に対応することが求められるようになってきている。
しかし、自然的、社会的、歴史的な諸条件は地域によってさまざまに異なるので、人口規模等による一律の合併論には無理があり、まして、強制的な合併は現行制度上も、また、自治の原則からも実行され得ない。合併は、関係地方公共団体の自主的な合意によってこそ行われるものである。
市町村の合併問題が大きく取り上げられているが、このことと関連する地方自治制度上の問題としては都道府県制度がある。これまでもしばしば取り上げられているが、これも検討課題となろう。
広域連携の具体的な形式はその内容や地域の状況等によりさまざまである。法律に基づかない協定等のように極めてゆるやかな拘束性の弱い形式のものもあるが、広域連合、一部事務組合のように、法律に基づき、組織のあり方等が固定的に定められているものもある。広域的な連携を図りつつ、事務を共同処理するための組織については、その事務の内容や運営についての考え方がその時点での地域の状況によって相当に異なることがあるので、共同組織を構成する地方公共団体の意向が反映する仕組みは確保しつつも、その具体的な組織のあり方や運営方法については、構成地方公共団体の意向によって相当自由にすることができるような柔軟な制度について検討する必要がある。
また、広域連携の広がりは、前述のように隣接の市町村に限定されるものではない。大規模災害に備えた広域的な応援体制は、阪神・淡路大震災の教訓を得て飛躍的に整備された。いわゆる川上と川下のような河川の流域に着目した連携があり、さらに、はるか離れた自然環境のなかへのレクリエーション施設の設置や産地直送型の物産販売等による遠隔の地方公共団体間の連携・協力の例も多数見られる。海外都市との友好交流の拡大は言うまでもない。このようなさまざまな形態、内容の交流は、都市の持つ本質的な機能の発揮につながるであろう。都市こそが交流の舞台としてふさわしい。交流から生まれる共感と一種のライバル感、知識経験の交換から生まれる新しい英知、創造への意欲は、都市の持つ可能性をさらに大きなものにしていく。
そのことは、都市自治運営の面でも貴重な基盤となっていくであろう。

3 分権と財源の強化
都市への分権推進
地方分権は今や時代の流れである。明治以降、わが国は中央集権型システムを基本としつつ、欧米諸国に追いつき、これを追い越すことに懸命の努力を重ね、経済的には世界トップクラスの地位を占めるまでになった。これからのわが国に求められるのは、経済、文化あらゆる分野において日本ならではの特徴を発揮し、単なる物まねではない、個性ある活動を充実させていくことであろう。それは言い換えれば、個人がまた地域が、それぞれに自前の価値観を有し、個性を発揮すべき時になっているということである。それが、狭い世界に閉じこもった偏狭な、独りよがりの行動を意味するものでないことはいうまでもないが、いずれにしろ、分権型システムへの転換は単なる行政システムのあり方以上の歴史的な意味を持つて考えられるべきであろう。
また、地方分権の推進は都市自治の運営上極めて重要な課題である。第2章においてこれからの都市政策の主要な課題を挙げたが、そのいずれをとっても、地域の実情に即した、しかも総合的な対策がタイムリーに実施される必要がある。そして、その実施主体の中心となるべきものは都市をおいて他にはない。
例えば、中心市街地の活性化対策が多くの都市において重要課題となっているが、これは単にその地域の商店街の活性化の問題ではなく、基本的には、都市のあり方の問題である。都市として多くの人が集い、交流が深まり、周辺地域を含めて、そこに物心ともに豊かな地域社会が形成されるようにするためのまちづくりをいかに進めるかにかかわっている。当然、そのためには、地域全体の道路・交通体系の整備、土地区画整理事業や駐車場の整備、多くの人が利用する公共施設の整備等まちづくりのハード面の整備の問題があり、また、地域の経営者等が中心となって進める商店街の魅力向上の方策も必要である。それらが、都市計画決定、土地利用規制、商工業振興対策等を経て推進されるのであるが、この場合、地域の社会経済の実情を最もよく知り、幅広い市民の理解協力を最も得やすい立場にあり、しかも総合的な行政主体である都市自治体が主体的に進めることが最も適当である。このような現実の地域行政の実行の上からも地方分権はさらに進められる必要がある。
地方分権推進委員会は、分権推進の見地から数次にわたる勧告を行ってきた。その内容には機関委任事務制度の廃止のような国と地方の関係の根幹に触れるものがあるほか、個別の制度においても、従来には見られなかった地方への権限移譲等が勧告されている。これらは全体として評価すべきものであるが、上述のような観点から見ればなお満足とは言い難い面があり、都市自治体を中心とする分権推進に向けて引き続き力強い展開を図る必要がある。
具体的な地方分権への動きについては、国と地方との間のみでなく、その地域における都道府県と市町村との間においても分権化を進めることが重要である。
また、市町村はその人口規模等が極めて多様である。そのため、従来、市町村に対する事務権限の配分は、政令指定都市、中核市、その他の市町村等の区分により行われてきた。人口規模や面積が異なっても都市は都市であるが、人口規模に応じた職員数の相違等からこのような制度が実施されてきている。都市への権限移譲をさらに進めていく観点からは、現行制度を踏まえつつ、都市一般に対する権限移譲とともに、状況の相違に応じた移譲を推進する必要がある。
さらに、市町村への権限移譲については必ずしも一律ではなく、それぞれの市町村の意向を尊重しつつ、的確な財源措置のもとにある程度の多様性を持つて行われるようにすることも一方法であろう。特に、都道府県と市町村との協議による委任等においては、地域の状況に応じた弾力的なやり方が考えられよう。
なお、中核市については、人口のほか昼夜間人口比率および面積の要件が設けられているが、特に分権推進の流れにおいては、人口要件を充たせば足りるよう検討する必要がある。
言うまでもなく、地方分権の推進は全ての行政事務を地方公共団体において処理するという趣旨ではない。国と地方公共団体とはそれぞれの性格に応じた役割分担をしつつ、国民にとって最も望ましい行政サービスを提供する責務を有する。その意味で従来から言われていることの基本的な考え方は、防衛、外交、司法のようにもっぱら国において処理すべき事務、さらには大規模な公共事業のように全国的な立場で実施すべき事務を国が分担することとし、その他の事務は地方公共団体が分担するということであったが、最近の事例で国と地方との役割分担のあり方を改めて考えさせられるものがある。
一つは、医療保険制度の抜本改革である。わが国の医療保険制度は、大別すれば被用者を対象とする健康保険と自営業者や無職者等を対象とする国民健康保険からなっており、国民健康保険は市町村が保険者となって運営している。しかしながら、被用者の増加という就業構造の変化、高齢者の増加等から市町村による国民健康保険の運営は極めて困難な事態を迎えており、これを抜本的に打開するためには、全国民を対象とする医療保険制度を創設し、その運営は国の責任において行うことが必要と考えられる。
また、介護保険制度については、国の制度として設けられたものであるから、国の責務として、市町村の保険財政の健全性の確保を含め、その円滑な運営のために必要な条件整備について万全の措置を講ずる必要がある。
廃棄物処理におけるダイオキシン対策については前述したが、離島、山間地等ではその対策として必要とされるような大規模な施設を維持することができず、また、共同処理によって施設を大規模化するとしても関係者の合意を整えるためには相当の時間を要するものもある。いずれにしろ小規模な施設によって処理せざるを得ない場合がある。このような場合に、規制基準以上のダイオキシンを排出することなく焼却処理するための技術開発が必要となるが、こうした新たに必要となる高度の技術開発等は国において行うことが望まれる。
このように地方分権が進展するなかでも、国と地方とがそれぞれの役割分担に応じ、必要な協力をしながら国民にとって最も望ましい行政活動を行うことが必要である。
都市財源の充実
地方分権の推進に関連して大きな問題となるのは財源の配分である。周知のように、国民に対する最終的な財政支出の比率は国1:地方2の割合であるにもかかわらず、国民からの税収入の比率は国2:地方1となっている。納税者が身近なところで税を納め、それがどう使われているかを監視していくことが重要であり、このことが市民の都市行政への理解と関心を深め、また、受益と負担の意識を高め、都市における自己決定・自己責任の一層の拡充につながることにもなる。地方公共団体としては、基本的にこの乖離をなくすよう従来から求めているが、このような状況のまま地方分権が進展することはこの乖離をさらに拡大することになる恐れがあり、今改めて、事務権限に見合う財源の再配分を求めたい。
具体的には、まず地方税の充実強化である。都市自治体としては、これまでも都市税源の充実を要請してきた。できる限り景気に対して安定性があり、税源として普遍性のある税目を中心に都市税源を充実強化することが基本であるが、地域によって経済状況が異なり、税源の偏在はまぬがれないので、これを調整する仕組みは不可欠である。現行制度においては地方交付税により調整が行われているが、これに代わるものがない現状では地方交付税による財源調整とこれによる財源保障のシステムを充実させることが必要である。この場合、地方交付税は国税収入の一定割合を総額としているが、本来、地方税として配分されるべきものを国税の形によって国民が負担しているものであり、地方固有の財源であることをさらに明確にする必要があるとともに、その地方公共団体への配分については、財政需要の実態に応じつつ、地方公共団体の理解を得ながら行われるようにする必要がある。
以上のようにして、地方税および地方交付税により標準的な財政需要を賄うことができる仕組みが確保されなければならないが、このような仕組みを前提にすれば、個々の地方公共団体において独自の地方税制を定めることにはおのずから限界がある。しかし、その地方公共団体において特に大規模な事業を実施することを選択したような場合には、従来より以上に、そのような特別な財政需要に充てるため、住民の受益に対し超過課税等臨時の負担を求めることが必要となろう。
また、税制面においてもより弾力的な対応が可能となるような措置が望まれる。
国庫補助負担金については、従来から主張しているように、その整理合理化を進めるとともに、必要な一般財源措置を講ずることとすべきである。

第4節 行政体制の整備
 地方分権の推進は、反面、地方公共団体の責任をより一層重くすることである。都市自治体は、議会との適切な連携、市民の理解・協力のもと、地域にとって最も適切な政策を適時に実行し、市民の福祉を向上させ、地域の活力を高めていくために中心的な役割を果たしていかなければならない。しかも、それらを最小の経費で最大の効果を上げるよう、効率的に行っていかなければならない。そのために必要な行政体制の整備も重要な課題である。特に、最近では国・地方を通ずる極めて厳しい財政事情のもとで、財政再建が緊急の課題となっているが、成熟した経済社会で高齢者が増加する等の状況を考えれば、今後、かつてのような大幅な税収増を期待することは難しいと考えられる。そのような状況のなかで、山積する財政需要にこたえていくためには、施策の厳しい見直し、組織機構の思い切った簡素化、職員定員や経費の抑制等を進めていかなければならない。もちろんこれまでもそのような行政改革への努力を重ねているが、新たな状況に応じつつ、常に初心に立ち返りながら真剣な取組みを続けていく必要がある。
施策の選択に関しては、民間との分担のあり方が問題となる。そもそも市民(個人、家庭、企業、地域)に委ねることとし、都市自治体の事業対象から除外すべきかどうかが論議の対象となり得るものもあるが、しばしば問題にされるのは、都市の直営か民間への委託実施かである。前述の「21世紀の都市及び都市政策に関する調査」では、具体的には公共施設の維持管理、ホームヘルプサービス、ごみ収集等について民間委託が望ましいとの回答が得られているが、それぞれの都市の実情を踏まえながら検討する必要があろう。
組織機構の問題については、財団法人日本都市センターが行った各都市へのアンケート調査(「市役所事務機構に関する調査」平成8年)の結果によると、機構改革に積極的に取り組んでいる都市自治体が多数見られる。例えば、係制を廃止し、いわゆるフラット化することによって、固定的な業務分担や職制を越えた機動的な対応をすることとした都市自治体が相当ある。都市自治においては今後ますます多様な課題が生ずるであろうが、あらゆる業務に対し、効率的機動的に対応し得る組織機構の整備をさらに目指していく必要がある。
また、都市自治体の業務運営においては、関連する施策が総合的に調整され、それぞれが連携を取りつつ適切に実施される必要があるものが多い。そして、このような総合性の発揮こそ地域に最も密着する都市自治体に求められるものであり、組織機構のあり方としてもこの点についての十分な配慮が必要である。
 都市の政策課題が増加し、多様化複雑化するなかで、地方分権をはじめとする諸改革が進められ、さらに情報処理技術等関連する技術の進歩が著しい。都市自治体の組織機構においても、このような状況変化に的確かつ柔軟に対応し、市民サービスの一層の向上を図るよう引き続き努力する必要がある。
都市自治体の組織に関連して、いわゆる第三セクターの問題がある。組織機構の簡素化を図る観点から、これらについては、できる限り整理縮小するよう努力が払われているが、それぞれの地域の必要により、また現実には国の支援制度を活用する必要からも増加しているのが実態である。このいわゆる第三セクターは、形式としては株式会社や財団法人等となっているものが多いが、これは地方公共団体が固有の必要に基づいて設立する法人に関して特別の法制度がないため、これらの既存の制度をいわば借用している場合が多い。そのため、必要があって第三セクターに職員を派遣する場合についても既存の何らかの制度を利用するほかはない。第三セクターの設立については十分慎重に検討しなければならないが、現在のようにもはや否定し得ない実態になっているのであるから、その設立手続きや、議会も含め、設立した地方公共団体としての関与のあり方等を規定する地方公共団体の第三セクターに関する一般根拠法を検討する必要がある。
事務処理に関して、都市自治体はコンピューターによる情報処理やマルチメディアの活用等いわゆる情報化の進展に対し積極的に対応している例が多い。住民基本台帳をベースにした窓口サービス等は、個別の市町村でワンストップサービスを行うだけでなく、広域にわたって共同処理をし、圏域内の市町村ではどこでもサービスを受けられるようにすること等まで発展している。情報化への対応は一般的な住民サービスにとどまらず、福祉活動や経済振興対策等幅広い施策の展開のなかでますます重要性を増すであろう。さらに情報関係に限らず、廃棄物処理、地域交通、福祉機器等多くの分野で技術革新が進むであろうが、都市自治体としてもこれらに迅速・的確に対応し、市民福祉の一層の向上に努力していく必要がある。
都市自治の運営については、表面に現れるさまざまな問題があるが、その根底に存在する最も重要な問題の一つは、これを支える人材の確保である。
分権時代といわれるなかで、それぞれの都市自治体が地域の持つ諸条件を最大限に生かしながら、市民のより豊かな生活の実現を目指し、多彩な施策を実現していくためには、市長のリーダーシップ、市議会の適切なチェックとともに、実務に携わる市職員の活躍が必要である。
職員には多彩な活動が望まれるが、何よりも重要なのは都市自治行政に従事し、市民福祉の一層の向上に尽くすことを自らの任務とする自覚であろう。その上に立って、都市行政に関する法令等の基礎知識を習得することはもちろんのこと、社会経済の変化等についての一般的認識、担当事務に関する専門的知識、政策立案能力等を身につけることが望まれる。さらに加えて、これからの都市自治においては、市民との円滑なパートナーシップの形成や、市民と一体となったイベントの実行等のノウハウ習得も必要である。このような多彩な能力を一人の職員が保有することは通常は期待できない。むしろ、多様な人材を網羅する職員の集団を育成し、多くの職員の協力のもとに少数の職員だけでは到底実行不可能なことまで成し遂げるような職員集団の組織化を心がけていかなければならないであろう。
このようなことのためには、それぞれの持ち味を生かした職員の積極的な参加が一層進むよう、各都市が独自で、あるいは他の地方公共団体との共同や、大学、民間企業まで含めたいろいろな方法による職員研修を実施し、実力を蓄積していくことが必要である。また、都市自治体主導の研修だけでなく、職員の自主的なグループによる政策研究や個人的な学習等、職員の自発的な努力による能力向上への動きを助長することも必要である。さらに、人事管理の面においても適切な人材登用を図っていく必要がある。
また、都市自治の運営に関連する地方自治制度のあり方については、これまでに記述してきたもののほか、住民投票制度、地方財務会計制度、住民訴訟制度、地方公務員制度等のさまざまな課題について検討する必要がある。

第5節 全国市長会の役割
全国市長会は、創立以来百年の間、その時々の課題に応じながら、都市自治の発展のためにさまざまな活動を展開してきた。その詳細は別途刊行する「全国市長会百年史」に明らかであるが、いずれにしろ、全国各都市市長の情報交換、交流を図りながら、都市自治が当面する諸課題の解決を図るため、都市自治体の意見を集約しつつ、国に対する要請活動等を行うとともに、都市自治に関する各種の調査研究等を行ってきた。このような全国市長会活動の重要性は今後ますます大きくなっていくであろう。
全国市長会において、近年、最も大きな日常的活動になっているのは、国の予算編成や制度立案に対する都市自治体としての意見表明である。特に、地方分権への動きについては、たびたび全国市長会としての具体的な意見を述べ、さらに介護保険制度の導入についても制度運用の実務を担当する現場として、その円滑な運用のために整備が必要な諸条件についての意見を述べてきた。その他、地方税財政対策、廃棄物対策、医療保険制度改革、中心市街地活性化対策等多くの問題について全国市長会としての意見を国に対して明らかにし、要請してきた。
このような活動については、地方自治法に全国市長会としての意見提出権が認められたこと等を背景にしながら、一層充実させていく必要があるが、そのためにまず行わなければならないのは、全国市長会が持つ情報交換拠点としての機能の充実であろう。それは、全国各都市の生々しい現場情報を全国市長会に蓄積することであるし、逆に国その他の動向に関する情報を全国各都市に提供することである。これを基礎としながら、あるべき政策に関する考え方の取りまとめへと発展させ、これを都市自治体の意見情報として表明していかなければならない。また、このような情報受発信活動は行政内部にとどめるのでなく、一般市民にまで拡大していくことを目指さなければならない。全国市長会のホームページにはそのような活用も期待される。
また、都市自治の一層の発展を期する上からは、当面する具体的な問題への対応だけでなく、グローバルな規模で急速に進んでいく社会経済の大きな変化を認識しつつ、中長期的に見た都市自治の基本的な対応のあり方等、基礎的な調査研究にも意を用いなければならない。
これらの活動の具体的な進め方については、単に全国市長会のみの対応としてでなく、財団法人日本都市センターのような関係団体の調査研究能力、都市自治その他の分野における有識者の知見等を幅広く活かすこととし、そのための有機的なネットワークの形成に日頃から努める必要がある。
都市人口が年々増大するとともに、わが国土のほとんどがいずれかの都市圏域に属することとなり、さらに地方分権が進められるなかで、都市行政は質量ともの一層の充実が求められている。国民生活における都市自治の重要性はますます大きなものとなり、その責務は一段と重いものになっている。
全国市長会は、このような状況のもとに創立100周年の大きな節目の年を迎える。都市自治の存在の社会的大きさを認識しつつ、急激な状況変化の中の新しい時代環境のもとで、その一層の充実発展を図るため、第2世紀の新たなステージにふさわしい活動を展開していかなければならない。
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