都市と廃棄物管理に関する調査研究報告


序 本報告の意義と視点
 1.廃棄物問題の位置づけ
 
 現代の社会においては、大量生産、大量消費、大量廃棄のシステムが中心に据えられている。その結果として、地球的規模での環境汚染等さまざまな環境問題が生じている。
 このような大量生産、大量消費、大量廃棄型社会から転換し、次世代のための持続的発展が可能な社会づくりを目指すことが、今日の日本社会に求められている。このことは、とくに生産・流通・消費の拠点でもある都市に強く要請されるものである。日本の都市は、今までの活動実績を踏まえながら、高質で豊かな環境創造の担い手として、さらに成熟して行くことが望まれていると言えよう。
そのためには、環境負荷の少ない資源循環型の都市が構築されねばならない。そこでは、地球環境問題も視野に入れながら、都市の構成者である生産・流通事業者、消費者等が、各々の活動局面で、環境負荷を軽減する努力を払い、資源循環型のシステムを基軸とした都市づくりの担い手として位置づけられる必要がある。
そのために都市自治体が担うべきこととしては、次の2点が特に重要である。
第1に、都市自治体が、市民との、あるいは市民相互、市民と企業相互のパートナーシップの進展に向けて調整機能を果たすことである。資源循環型の都市づくりのためには、市民、企業、行政とがパートナーシップを組んで、協働して行動していくことが必要であり、また、行政が介在しない形での市民同士や市民と企業との自発的パートナーシップの強化も不可欠だからである。
第2に、都市自治体は、都市環境を適切に管理する視点に立って、環境基本条例の制定や環境基本計画の策定に取り組んでいかなくてはならない。また、環境マネージメント及び環境監査の国際規格としてのISO14000シリーズの資格取得あるいは地域企業の資格取得への働きかけに加え、環境への負荷ができるだけ少ない商品やサービスを購入するというグリーン調達・購入の実施及び促進や環境自治体の活動等を積極的に行っていくことが求められている。
 ところで、都市における環境政策や資源循環型社会づくりの基本に位置付けられるべきものは、廃棄物行政であると言っても過言ではない。廃棄物問題に対する深い認識がなくして、地球環境問題を真に語ることはできないであろう。すなわち、環境政策の出発点に廃棄物問題があり、また、その到達点に廃棄物問題の解決があるということである。このことは、全国市長会が先般実施した、全国の有識者や市長を対象とした、デルファイ調査の結果においても、現在の深刻な都市問題の第1位として、廃棄物問題が挙げられているように、とくに市民や都市自治体の職員にとっては実感しうるものではなかろうか。
 
 
2.本報告の視点
 
 大量生産、大量消費、大量廃棄の今日の社会状況下において、都市においては廃棄物問題が最大の社会的・行政的課題の一つとして位置づけられている。なかでも、廃棄物処理場の立地、ダイオキシン類の発生、最終処分場の逼迫、廃棄物の不法投棄等の問題が特に深刻なものとなっている。廃棄物問題は、いまや市民生活における安全や安心に、大きな影響を及ぼしつつあるといってもよく、都市の環境問題の基本的課題として、抜本的な政策的対応が求められている。
 このような状況下、全国市長会においては、平成9年1月に廃棄物処理対策特別委員会を設置し、都市における廃棄物処理の現状と課題について検討を行うこととされた。それを受けて、日本都市センターは、平成9年5月に全国市長会から廃棄物管理のあり方等に関する調査研究を受託した。
日本都市センターでは、直ちに、「廃棄物に関する都市政策研究会」(座長 寄本勝美 早稲田大学政治経済学部教授、以下「研究会」という)を設置し、同年8月には全国の都市自治体へのアンケート調査「都市における廃棄物管理に関する調査」(全国市への悉皆調査、以下、「都市アンケート調査」という)を実施するともに、研究会を中心にして、中長期的視点からの廃棄物管理の方向を明らかにすべく、これまで検討を行った。なお、研究会における主な議題等については、本報告書の巻末に一覧できるように整理している。
 ところで、本調査・検討結果によれば、これまでの市民や都市自治体等によるリサイクル活動や廃棄物行政の取り組みの実績を積極的に評価しつつも、都市自治体の廃棄物問題は、「廃棄物処理」という次元に焦点を当てた短期的、当面の対応のみでは、その根本的解決は困難であろうということである。すなわち、廃棄段階以前の、生産・流通・消費の段階までさかのぼり、廃棄物の発生・排出抑制と資源循環のシステムとを織り込んだ、より大きな概念としての「廃棄物管理」ないし廃棄物に関するマネージメントという観点に立って対応すべきものであり、また、市民の生活パターンや企業の行動パターン等のさらなる改善も必要だということである。
 そして、以上のような結論を導くにあたって、研究会での議論等において常に留意したのは、次のような2つの視点を同時に持ち続けることの大切さである。
 すなわち、第1の視点は、中長期的な観点に立脚するものであって、「ごみゼロ社会」の実現のために、廃棄物に関する制度や枠組み等を大きく組み直していくことの必要性と方向性を明らかにすることである。そして、その場合、日本の廃棄物行政の問題点を再確認するとともに、世界の主要国における立法や政策の展開等国際的潮流の変化を踏まえて、新たな制度づくり、政策づくりの「物差し」を提示することに努めたことである。
 第2の視点は、日本の各地域で展開されている、市民、企業、都市自治体等が協働して取り組む分別回収・資源リサイクル活動やごみの有料化導入の努力等、ごみの減量化に向けての多様な行動と経験の蓄積を正しく、かつ、積極的に評価することである。廃棄物問題に対する日本の市民のモラルは、決して低くはない。そして、その実績の基盤の上に立脚しつつ、環境負荷の小さい循環型社会の構築に向かって、さらにその活動をより有効な形で伸ばし、進めていくためには、経済的手法の積極的な導入をはじめとして、どのような考え方やシステムを採用すればよいのかという問題意識に立脚したことである。
 本報告をとりまとめるにあたっては、これら2つの視点をつねに意識しながら論点を整理したところである。
 
3.本報告の構成と概要
 
以上のような視点に立脚しつつ、本報告書は2部構成をとった。
第1部においては、研究会での委員から出された意見や提言と「都市アンケート調査」等を基礎にして、研究会における基本的認識および政策提案等をとりまとめている。なお、本部各章の概要は以下のとおりである。
第1部第1章は、本報告の総論として位置づけられるもので、研究会の基本的な視点と課題認識のスタンスを明らかにしたものである。具体的には、資源循環型社会を構築するにあたっての基本的枠組みと政策のポイントを提示している。
第1部第2章では、多くの廃棄物管理に関する諸課題の中から絞りこみ、循環型社会を形成するために都市自治体にとって特に重要と思われる、自区内処理の原則と広域処理、ごみの有料化、廃棄物関連の技術開発の3つを主要課題として取り上げ、各々の現状と将来方向についてまとめている。
第1部第3章においては、今日の廃棄物対策としてクローズアップされている、容器包装リサイクル法、ダイオキシン問題、産業廃棄物の3つを緊急課題として取り上げ、前記第1章及び第2章において指摘している視点も織り込みながら、その課題と対応方向を示している。
 第2部は、「都市アンケート調査」の結果をまとめたものである。その内容は、わが国の都市自治体の廃棄物問題や政策状況等の実情と行政担当者の問題意識や認識のスタンスをリアルに示しており、極めて貴重な資料として多方面で活用されるべきものと思われる。また、同時に、第1部に示されている都市自治体の取り組み等に関するバックデータとして、位置づけられている。
 

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