第81回全国市長会議 決議



原子力発電所の事故と安全対策に関する緊急決議

 東日本大震災とそれに伴う大津波により、東京電力福島第一原子力発電所においては全ての電源喪失により冷却機能を失い、炉心溶融、水素爆発など、あってはならない原子力事故を引き起こし、放射性物質を大量に放出する事態となったが、3か月を経た現在においても未だ原子炉を制御できない状況が続き、地元住民の日常生活はもとより国民生活や産業活動に大きな混乱をもたらす事態となっている。
 この原子力事故により、原子力緊急事態宣言が発せられ、警戒区域、計画的避難区域、緊急時避難準備区域が設定されているが、こうした区域の住民は県外や町を挙げての避難を余儀なくされ、平穏な日常生活や職業を奪われ、ふるさとに安心して帰ることができる日もいつになるかわからず、職業をはじめとする日常生活面のみならず精神面においてもその不安と混乱は頂点に達している。
 また、放射性物質の放出による住民の被ばく、飲料水や農畜水産物の汚染は県域を越えて広域的かつ深刻な被害をもたらし、風評被害とも相俟って、農畜水産業のみならず観光業や商工業にも多大な損害を及ぼしている。
また、政府は中部電力浜岡原子力発電所の運転停止を要請し、中部電力はその要請に従ってその運転を停止したところである。
 そもそも原子力発電は国がその安全性を全面的に保障し、立地・周辺自治体の協力を得ながら推進してきた国の政策であり、その事故処理や安全対策はもとより、エネルギー政策の在り方についても国が包括的かつ最終的な責任を負うべきである。
 よって、国においては、今回の事故の早期収束と完全な賠償及び原子力発電所等の安全対策のほか、電力確保やエネルギー政策の在り方等、下記事項について、国の責任と財政負担により、万全の措置を講じるよう強く要請する。

1.迅速かつ適切な原子力発電所事故対応


(1)緊急事態の早期収束
  国は責任を持ってあらゆる手段を講じ、放射性物質の放出を一日も早く止めるとともに、一連の事態の早期の収束に向け、全力を挙げて取り組むこと。


(2)放射線量等の監視体制の拡充及びその情報提供の充実


@ 国は、大気、土壌、海洋等の環境モニタリングを拡充して放射線量の観測体制に万全を期すとともに、放射性物質による広域的な汚染等の被害を明らかにし、避難者及び被災農畜水産業者をはじめ関係者への影響について、丁寧かつ分かりやすい説明を継続的に行うこと。


A 放射線量測定地点については、学校施設をはじめ大幅に増やすとともに、放射線量の高い地域の児童・生徒をはじめとする住民や避難者等のスクリーニング検査、甲状腺検査等、継続的な診断を実施すること。


B 放射線が周辺に与える影響等について、地形や風の向き・強さなどの予想を考慮した迅速かつ分かりやすい情報提供を行うこと。


C 放射性物質により汚染された農地・校庭等の土壌、住宅・店舗等の建築物などの除染方法や安全基準を早急に設定し、除染計画を明確に示すこと。


D 放射性物質により汚染されたがれきや下水汚泥等については、国の責任でモニタリング調査を行い、適切な撤去方法を考案するとともに、国の負担で撤去すること。


E 放射線量の高い地域の学校等で除去した土、砂等の適切な処理方法について明確な基準を示すとともに、その費用について支援を行うこと。また、教室等に設置する放射線の影響を遮断する空調施設に対する支援措置を講じるとともに、プール使用に際しての適切な基準を示すこと。


F 国民に対する安心・安全な食品の供給と、産業振興につながる食品の輸出を継続させるため、食品等の放射性物質の測定及び安全性の証明を行う機関を国において設置すること。


(3)原子力発電所事故に起因する財産的損害や精神的損害等に対する早急な完全賠償等


@ 国及び東京電力は、被災者・避難者の生活保障に係る支援等について、責任をもって一刻も早く制度を創設し、実施すること。


A 国及び東京電力は、警戒区域、計画的避難区域、緊急時避難準備区域はもとより、それ以外の地域においても、市民や事業者が精神的不安や風評により被った直接・間接な被害、損失に対し責任を持って補償すること。


B 国及び東京電力は、放射性物質に起因する農畜水産物等の被害や操業停止を余儀なくされた事業者・従業員等の損失に対する完全な賠償を早急に行うこと。


C 国及び東京電力は、放射性物質の放出に伴い風評被害を被った農畜水産物等の生産者や加工業者、観光業者や商工業者のほか、それらの従業員に対し、完全な賠償を早急に行うこと。


D 上記営業被害、風評被害のほか、精神的不安などについても幅広く賠償等の対象とするとともに、迅速に賠償金又は仮払金を支払うことができるよう、必要となる立法措置を講じること。


(4)きめ細かな風評被害対策


@ 国は、農畜水産物、工業製品等に対する根拠のない連鎖的な風評被害が生じないよう、正確な情報とわかりやすい広報を国内外に迅速かつ積極的に行うとともに、監視の強化と徹底的な指導に努めるほか、風評被害に伴う損失について国は完全な補償をすること。


A 国は、社会経済活動の回復を図るため過度な自粛ムードの払拭に努めるほか、風評被害により大きな打撃を受けている観光産業を立て直すため、国内向けのみならず海外に向けて安全性について正確な情報発信を行うとともに、関係団体の行う安全性をPRする取組みに対し支援措置を講じるほか、金融・財政上の支援措置を講じること。


B 外国政府等に対し、きめ細かな安全情報を発信するとともに、誤った情報や誇張した報道に対しては速やかに訂正を要請すること。また、駐日外国公館、在外公館等を通じ、渡航の安全性に関する情報を積極的に伝達するとともに、過度に自粛を勧めることのないように要請すること。


(5)被災自治体及び避難者受入れの支援を行う自治体に対する財政支援

@ 役場機能移転等、自治体が被った損害も賠償の対象とするとともに、避難を強いられた自治体における地方税の減収等について、国は十分な財政措置を講じること。


A 避難の長期化が予想される中、避難者を受け入れている自治体の避難所経費、一般経費等が増大していることから、災害救助法による概算請求や財政支援等について特段の配慮を行うこと。

 

2.原子力発電所等の安全確保及び防災対策の強化


(1)原子力発電所等の総点検と事故防止対策
 今回の原子力災害に至った原因を徹底検証し、原子力発電所の「止める・冷やす・閉じ込める」機能を、あらゆる事象を想定したうえで、いかなる場合においても確保できるよう万全の対策を講じ、すべての原子力発電所等に対する総点検と事故防止対策を早期に実施すること。


(2)原子力安全規制体制の見直し
 今回の事故の徹底検証を踏まえ、防災指針や原子力発電所等に対する耐震設計審査指針などの安全審査基準を抜本的に見直し、安全の徹底を図り、国民から信頼されるよう万全を期すこと。


(3)原子力事故に対する情報伝達システム及び避難体制の再構築


@ 原子力発電所等の事故に関する情報は、自治体及び住民に対して迅速かつ正確に公開・伝達するとともに、避難等に係る情報は、住民がとるべき行動や防護措置を含めわかりやすくかつ的確に周知徹底が図ることができるよう、情報伝達システムや避難等の行動指針を早急に構築すること。

A 避難区域や住民避難の設定基準について、自治体の意見を十分に踏まえたうえで方針を早急に示し、具体の避難場所や避難ルート、避難方法などの選定について、国の責任を果たすこと。


(4)原子力防災対策の抜本的見直し


@ 今回の原子力災害による放射能汚染範囲を踏まえ、「防災対策を重点的に充実すべき地域の範囲(EPZ)」の拡大や避難先の選定方法など原子力防災対策の抜本的見直しを早急に行うとともに、現行の周辺地域にとどまらない広域的な防災対策及び支援措置の充実に向けて、制度の創設や弾力的運営を図るなど、国の責任において徹底した対策を講じること。


A 住民の速やかな避難や緊急車両通行に必要な防災道路を早急に整備するとともに、住民の安全・安心確保のため、モニタリングポストや放射線測定装置、原子力防災資器材の増設・整備を適切に行うこと。


B 都道府県及び市町村が定める地域防災計画がより有効に機能するよう、市町村域、都道府県域に捉われない広域災害として、国は主体的に防災体制を確立すること。


C 通常時から国、都道府県、市町村及び事業者間の相互連携を図り、危機管理体制を整えるとともに、稼働中の原子力発電所の運転状況と対策に関する情報が共有できるようにすること。


(5)原子力医療体制の強化
 被ばく医療体制に位置付けられた医療機関に対して、技術的・財政的支援を拡充強化すること。


(6)原子力防災対策に対する立法措置及び財政措置
 原子力災害のための避難対策や住民不安解消対策、防災資器材の整備等、原子力防災体制の拡充強化に伴う財源は、国の責任において確実に措置するとともに、これら対策を着実かつ効果的に推進するための所要の立法措置を含めた法体系を整備すること。

 

3.電力の安定供給の確保


(1)電力需要のピークを迎える夏場を控え全国の住民生活や企業活動・雇用に影響を及ぼすことのないよう、電力の安定供給の確保について国が責任を持って対処すること。


(2)発電コストの増加に伴い、特定の地域の住民に電気料金の引き上げという形で負担が転嫁されることがないよう、国が責任を持って対処すること。


(3)原子力発電所立地周辺地域における交付金及び雇用の確保について万全を期すこと。

 

4.将来を見据えたエネルギー政策の検討
 地球環境の保全と国民の安全安心の確保や社会経済の発展を前提として、将来にわたるエネルギー政策の在り方について国民的議論を尽くしたうえで、必要な措置を講じること。

 

 以上決議する。

 平成23年6月8日

全 国 市 長 会