全国市長会の主張 意見



  全国市長会は「学校教育と地域社会の連携強化に関する意見−分権型教育の推進と教育委員会の役割の見直し−」を取りまとめ、政府並びに関係方面に提出した。
  また、2月19日に本会を代表して社会文教分科会委員長の杉浦・安城市長が文部科学省田中壮一郎初等中等教育局担当審議官、中曽根弘文内閣総理大臣補佐官、森山眞弓自由民主党文教制度調査会長に、2月21日に町村信孝文部科学大臣、岩永峯一自由民主党文部科学部会長代理にそれぞれ面会のうえ意見の提出を行うとともに、関係方面に要請を行った。



学校教育と地域社会の連携強化に関する意見
−分権型教育の推進と教育委員会の役割の見直し−

平成13年2月19日
全 国 市 長 会


 将来への夢をもちながらまじめに生きようとするすばらしい多くの若者がいる反面、近年、凶悪な少年犯罪が頻発しているほか、いわゆる学級崩壊、いじめ、不登校など学校教育の現場での混乱が各地に見られる。また、大学生の基礎的な学力の不足が指摘されるなど、学力の低下も懸念されている。さらに一部の成人式の混乱に見られるような規律の欠如も問題になっている。そして、凶悪事件を犯した青少年には人間らしい感情や常識的な判断能力が欠けているなど、これらの背景には、あたたかな思いやりや若者らしい夢や希望が失なわれるという深刻な精神面での荒廃があると思われる。
 戦後50年余、新たな制度のもとで我が国の学校教育は進められてきたが、物質的には大幅に豊かになるなど、社会や経済が大きく変化するなかで、このような事態を迎えており、21世紀の我が国の行く末が案じられることとなっている。
 国においては、教育改革を重要な課題として取り上げ、各界有識者の意見をききながら検討を進めているが、地域社会の健全な運営に責任を有する我々としてもこのような状況を看過することはできない。そのため、昨年10月4日、「21世紀を支える青少年の育成に関する緊急意見」を明らかにしたが、その後の検討を踏まえ、学校教育と地域社会との関わりのあり方を中心とする下記の意見を提出するので、国においては、これについての真剣な検討を行い、必要な措置を講ずるよう強く要請する。



1. 地域の自由な発想をいかす分権型の教育
 我が国の教育は、今日まで、文部科学省−都道府県教育委員会−市町村教育委員会という強固な縦の系列の中で運営されてきた。地方分権一括法により若干の改正がなされたものの、このことの基本には変更がない。もとより、国全体としての標準的な教育水準の確保などの必要性を否定するものではないが、教育内容、教職員人事のあり方などにおける強固な集権的教育システムについては改革すべき時期にきていると考えられる。
 勿論、これまでにも、各都市自治体においては自然とのふれあいを重視するセカンドスクールの実施、子どもの心のケアのための心理療養士の配置など独自の工夫を重ね、努力をしてきた。しかし、我々の中にもその内容について強い異論があるいわゆる「ゆとりの教育」のような新たな学習指導要領は、これまでの例であれば、全国一律に実行されるであろうし、また、教育長の任命承認制は廃止されたものの、教職員人事は事実上もっぱら都道府県教育委員会の意向によって決定され、市町村の意向が反映されることとはなっていない。我々としては、このようなあり方は改められるべきであると考えている。例えば公立学校の週5日制については、学力の一層の低下や公立学校ばなれを招き、公教育への信頼を失うことが懸念され、このようなことの全国一律の扱いは、適当とは考えられない。
 それぞれの地域には、本来、独自に教育の充実向上を進める土壌と力がある。地方分権時代を迎え、教育においても、地域の特色や工夫をもっといかした、いい意味での競い合いが行われることが望ましい。
 そのため、「ゆとりの教育」などの教育内容や次に述べる地域社会内における連携のあり方、外部人材の登用を含む教職員人事等について、従来の縦系列による集権型のシステムを分権型の地域の発想をいかすシステムに改めるべきである。また、これが実行可能となるように十分な財政措置を講ずる必要がある。

2. 学校と家庭・地域が一体となった地域連携型の教育

(1) 市町村段階の取組み
 教育をめぐる今日の状況は、もはや学校のみによって解決することはできない。基礎的なしつけなどを行うべき家庭・親に問題がある場合も多く、また、かつてのように大人たちが他人の子どもに対してまで叱り、慈しみ、子どもたちも年齢をこえて共に遊ぶような地域社会が失なわれてきている点にも問題があろう。子どもたちの健やかな成長のためには、学校と家庭・地域が一体となった取組みが不可欠である。
 そのため、各地域でさまざまな実践を行ってきているが、このような取組みを効果的に、円滑に進めていくうえからも、まず1に述べた分権型のシステムにより市町村段階での取組みが大きな役割を担うこととしなければならないと思われる。

(2)教育委員会制度に関する検討
 さらに、地域が一体となった取組みを進めるうえで重要な問題となるのは市町村長と市町村教育委員会の関係である。戦後、教育の政治的中立性確保などから設けられた教育委員会制度は、50年余を経て、1に述べた文部科学省を頂点とする縦系列の中での地域の自主的な活動の弱さ、学校教育関係者以外との接触の希薄さに伴う閉鎖的な印象、市町村長との関係のあり方などいろいろな問題が指摘されており、制度としての存廃まで含めてさまざまな議論が展開されている実態である。
 従って、教育委員会制度そのものについて、教育をとりまく環境の変化など歴史的な経過や運営の実態を踏まえた基本的なあり方についての検討が必要になっている。

(3) 生涯学習等の事務の所管の変更
 また、当面、生涯学習等の事務の所管が問題である。現行制度の下では、学校教育のみならず社会人を対象とする生涯学習や芸術・文化、スポーツなど文部科学省所管行政のほぼすべてが教育委員会の所管とされている。一方、市町村長は、市町村行政全体を統轄する立場にあり、市町村行政の総合的な運営に当たっている。このような市町村長の制度上の位置づけを踏まえ、生涯学習など学校教育以外の分野については縦割り型ではなく、多方面からの総合的な対応が望ましいこと、このような分野については、教育の政治的中立性確保といった理由から特に教育委員会の所管とすべき強い事情があるとも考えられないことなどから、市町村長の所管とすることが適当である。これは、学校と家庭・地域の一体的な取組みを各種の地域団体等の協力を得ながら促進するうえでも望ましいと考えられる。

(4) 市町村長と教育委員会との連携強化
 また、教育委員会と市町村長との連携も重要である。
 上述のように、教育委員会は文部科学省所管行政を広く所管しているが、市町村長もまた市町村行政を全体として統轄する立場にあり、教育委員会所管事業を含めて当該市町村の予算を編成するので、現実には、さまざまな方法で市町村長と教育委員会は連携の努力をしている。今後、地域が一体となった教育を推進するためには、広く教育委員会が所管する事務について、住民の代表である市町村長の意向が適切に反映されるよう、市町村長と教育委員会との間で定期的な協議を行うなど、可能な限りの意思疎通を図ることが望ましい。そのような面でも教育に関する地域社会内の連携が十分確保されるよう、国においては制度上運営上、適切に措置することとされたい。